海外版DVDを見てみた 第11回 ジョン・ボールティングの『ブライトン・ロック』を見てみた Text by 吉田広明
『ツイステッド・ナーヴ』
『ツィステッド・ナーヴ』ポスター

『ツィステッド・ナーヴ」』狂気の少年

先に書いたように、『ブライトン・ロック』はもともとボールティング兄弟の企画ではなかったもので、内容的にも彼らに特有の社会批判的な側面が希薄、主人公の歪んだ性格に主点が置かれた、兄弟の作品としては例外的なものである。とはいえ、その後の作品にも、これに類した作品がないではなく、それが『ツイステッド・ナーヴ』Twisted Nerve(68、ビデオで発売されているが、『密室の恐怖実験』という、内容とまったく合っていない題なので、原題をカタカナで読んだ題で表記する。原意は「ねじれた神経」)だ。

精神薄弱を装う少年が、彼に同情する少女につけこみ、彼女の母親が賄い付き下宿をやっているので、その下宿人となってそこに居つき、計略をもって義父を殺害。さらに少女を監禁し、結婚を迫る、というサイコもの。『ブライトン・ロック』もニューロティックな主人公であったが、ここではもっと明確に狂人。『戦慄の七日間』も、あるいは「マッド」・サイエンティストものと言えなくはないだろうから、こうした狂気への関心が、ボールティング兄弟に持続的にあったと言えば言えるのかもしれない。主人公の狂気が、遺伝子のねじれにあるとか何とか、また原因に関してダウン症とかにも言及されるが全てどうでもよい。美少年の狂気と邪悪、というのがもっぱらの売りである。ただ惜しむらくは主人公の少年が、少し太り肉であることで、そのせいで少年の少女に対する狂気の発露も(心理的なものと言うよりは露骨に性的なものと見え)、どことなく生臭い感じになっている。もうひとつの売りとしては、少年が邪悪な考えにとり憑かれる時口笛を吹くのだが、それがヒッチコック作品で有名なバーナード・ハーマンによるものだ、ということだ。この口笛のテーマ曲は、後にクェンティン・タランティーノが、『キル・ビル』で、エル・ドライバーのテーマとして使って再び有名になった。

というわけで、恐らくフィルム・ノワール的なものに必ずしも親和的ではなかったボールティング兄弟もまた、47年にフィルム・ノワールを撮っているという事実。それはやはりイギリスの映画界において、ノワールが製作される歴史的社会的土壌が、まぎれもなく成熟した形でそこにあった、ということを指し示していると思われる。我々はまだ、そのメルクマールとなる47年という年に目を付けたばかりであり、その年の周囲に、どのような条件が、またどのような周辺的作品が生まれていたのか、その探求はこれから、と言える。

Brighton Rockも、Twisted Nerveも、またRun For The SunもすべてイギリスのOptimumからDVDが出ている。リージョン2、PAL版、字幕なし、おまけもない。