『移民者たち』のリブ・ウルマン
『移民者たち』のモニカ・ゼッテルンド
『移民者たち』船上の移民者
『移民者たち』見つけた土地の木に名を刻むシドー
『移民者たち』
十九世紀半ば、ごく少数の権力者によって支配されたスウェーデンの村。農民は岩の多い不毛な土地にしがみついて暮らしていた。主人公の農夫(マックス・フォン・シドー)はまだ少女の面影を残す女性(リヴ・ウルマン)と結婚(ブランコに乗る彼女の視点で撮られた映像と、彼女を見ているらしい男の、心の揺らぎをそのまま写し取ったかのような手持ちによるブレた映像)する。弟(エディ・アクスバーグ、『これが君の人生』の主演)は地主の下働きに出ているが、さぼっているところを発見され、側頭部を殴られ、それ以後しつこい耳の痛みに悩まされるようになる。ウルマンの伯父は、強権的な司祭に反し、私的にキリスト教の集会を開いて弾劾される。その一派の中には娼婦(モニカ・ゼッテルンド)もいた。ある日、シドーら夫婦の長女が、空腹のあまりお粥を盗み食いしたために具合が悪くなってしまう。その粥は発酵によって膨れ上がるもので、胃が圧迫されていたのだ。救護も空しく、彼女は亡くなってしまう。一家と、伯父らの一派はここに至り、移住を決意する。
長女の死は直接描かれることはなく、ベッドでもはや声を出す気力すら奪われている彼女を映したカットから、白いシーツに包まれた遺体、棺を作っているシドーへとカットが代わってそれと知られるばかりだ。アクスバーグは、雇われ仕事を転々としながら本を読み、その知識によって新しい社会への窓口を開ける存在として、前作『これが君の人生』から地続きのような役柄を演じている。彼が川辺で何故か木靴を川に流す場面があり、何をしているのかは分からないながら、その後シャツが石に引っかかっているカットが映り、どこか不穏なものを我々は感じる。資料を見ると、彼は自然科学の本を読むのが好きで、水の流体としての性質を確かめていたということなのだが、その後彼が猫を処分せざるをえない立場に置かれ猫を袋に入れ、川に流す場面もあり、水と死はここに至って明確に結び付く。とするならば、大いなる水(海)を渡ってゆく移民の旅は彼らにとって不運をもたらすのだろうか。
確かに船旅は過酷で、その途次で病弱な少女、伯父の妻が亡くなり、船室の不潔さにも悩まされる。シラミが湧き、清潔が自慢だったウルマンは動揺のあまり、不潔な女=娼婦がシラミを持ち込んだと非難。だったら服を調べて見ろと娼婦モニカは上半身裸になる。彼女のせいではないと判明、その後ウルマンは、彼女が少女時代に売られ、過酷な生活を送ってきたと知り、彼女に同情、さらにアメリカに着いた後、蒸気船でミシシッピをさかのぼる途中で降りた港で、次女が見えなくなり、危うく乗り遅れそうになったところを、貝殻を拾って遊んでいた次女を見守り、連れ戻してくれたモニカに感謝するなどの出来事を経て、彼女と親友になる。蒸気船の船上にコレラが発生、モニカの娘はこのため亡くなってしまう。ミネソタに着いた彼ら。シドーは近場で土地を見つけた他の移民から遠く離れ、森の奥に分け入ってゆく。その森を出ると開けた土地が広がり、湖やそれに流れ入る川も近い。彼は水辺に立つ木の表皮を斧で削り、そこに自分の名前を書きこむのだった。
以下次回