コラム 『日本映画の玉(ギョク)』 Jフィルム・ノワール覚書⑩ 『警視庁物語』の時代 その4   Text by 木全公彦
今回は『警視庁物語』シリーズの第3期として、第19作『19号埋立地』から最終話の第24作『行方不明』まで取り上げる。デ-タ中、[事件名]はできるだけ劇中に登場する捜査本部が掲げる事件名に準拠し、特に登場しないものは便宜上の名称をつけた。セミドキュ・スタイルの映画であるのに加えて、事件が土地に結びついているものがあるため、できるだけ[ロケ地]を判別したが、映画から判別できるものには限りがあるため、分かったものだけを記載した。

『19号埋立地』
『警視庁物語 19号埋立地』ポスター

『警視庁物語 19号埋立地』
⑲『警視庁物語 19号埋立地』(1962年7月29日公開)66分
[監督]島津昇一 [脚本]長谷川公之 [撮影]佐藤三郎
[事件名]十九号埋立地殺人事件 [事件発生場所]葛西?(埋立地) [その他の主要なロケ地] 錦糸町(本所警察署)、稲荷町(仏具店)、浅草(浅草派出所)、浅草六区、墨田区西吾嬬町(現・墨田区文花)、水道橋?(おでん屋台)

東京湾沿岸の埋立地の工事現場で、数珠を手にした中年男の絞殺死体が発見された。さっそく警視庁捜査第一課が現場に向かう。死後、約一ヶ月が経過していて、年齢は35歳から40歳前後、身長は1メートル70センチ。被害者の履物が発見されていないことから、別の場所で殺害されて運ばれてきたものと判断された。歯並びが悪く、虫歯があるのに長い間治療された痕跡がなく、着衣の様子から生活困窮者であろうとも推察された。状況から見て犯人が被害者の手に数珠を巻き付けたと見て間違いないと思われた。捜査班は二班に分かれ、この数珠の調査と、工事現付近の聞き込みを開始した。

プレスの表記は『警視庁物語 十九号埋立地』だが、映画のタイトルを確認すると、『警視庁物語 19号埋立地』なので(脚本も同様)、訂正の上、以後この表記に従う。

『謎の赤電話』と2本撮りによる島津昇一監督作品のシリーズ4作目。本作のみ長谷川公之のタイトルには「原作・脚本」とある。というのは、本作は先に長谷川が書いた、TBS系列で放送された30分枠のテレビドラマ『刑事物語』(1960年12月8日~1961年9月8日)の第39・40回の『岐路』の脚本を長谷川公之自身が自ら映画用に脚色し直したものだからである。『刑事物語』についてはのちほど詳述する。

前作『謎の赤電話』から南広が刑事の一員として復帰。シリーズのレギュラー出演者である谷本小夜子改め谷本小代子の見せ場があるのもファンには嬉しいところ。死体が発見され、駆けつけた捜査一課の刑事たちが死体を覗きこむ場面が、下から見上げた仰角の構図で円陣のようになって覗きこむ刑事たちの姿を撮らえる。極力劇映画的な演出を排除してきた本シリーズとしては珍しい演出。このような演出はシリーズ第20作『ウラ付け捜査』、第22作『十代の足どり』を担当した佐藤肇によって、さらに推し進められることになるが、本作ではこの場面のみ。

刑事たちが聞き込みをする死体の発見された埋立地近辺の長屋のような共同住宅は、貧しいバラックのような木造建てで、今回もシリーズ第16話『15才の少女』に続いて、事件を描きながら貧困の中で生活する人々がやむをえぬ事情で犯罪を犯してしまう悲劇を描いていく。殺人を犯す回想場面はなく、取調室の自供だけで処理しているのは原点回帰だろう。捜査の過程で描かれる新興宗教、浅草のテキ屋を取り仕切る組のショバ割りなどの風俗が興味深い。