“犯罪捜査”シリーズ その1
① 『麻薬街の殺人』(1957年11月23日公開)32分
[製作・脚本・監督]浅野辰雄 [脚本]西沢治、野上徹夫 [原作]樫原一郎
[出演]殿山泰司、赤羽茂、近藤宏、田中志幸、小島一馬、荒谷圃水
神戸を舞台に、電話ボックスで死んでいた男の身元を追っていくうちに明らかになる麻薬犯罪。麻薬患者を作りだしては麻薬を売りさばく組織を追う刑事たちの姿を描く。刑事に殿山泰司、潜入捜査官に土曜会(芸能プロ)所属で、前後して日活と契約する近藤宏。ほかの出演者も土曜会所属の俳優がユニットで出演している。殺し屋の男が終始、フェリーニの『道』(1957年5月25日公開)の“ジェルソミーナのテーマ”を口笛で吹いているのが印象に残る。組織壊滅に警察が向かうところでエンドロールがかぶる。本作だけ他の作品より尺が短い。
② 『殺人と拳銃』(1958年2月18日公開)45分
[製作・脚本・監督]浅野辰雄 [脚本]西沢治
[出演]近藤宏、芦田伸介、岸旗江、左京路子、立川雄三、南博之
閑静な住宅街で拳銃を使った押し込み強盗殺人が起きる。刑事たちの捜査が始まり、現場の様子から犯人は左ききだと分かるが……。のちに新東宝に入社し、グラマラスな肢体で“水爆女優”の異名を取った左京路子がショーガールの情婦役で出演。彼女は左京未知子と改名し、黎明期のピンク映画のスターとなる。拳銃の名手である刑事に近藤宏、その上司に芦田伸介(民藝)。近藤宏の妻に東宝レッドパージ組の岸旗江。近藤の刑事が食卓で小さな娘のいる前で拳銃を振り回す場面は変だが、警官の射撃訓練の様子は見もの。
③ 『野獣群』(1958年4月12日公開)44 分
[製作・脚本・監督]浅野辰雄 [脚本]西沢治 [原作]樫原一郎
[出演]殿山泰司、中島一豊、嵯峨善兵、近藤宏、左京路子、由利章、湯川れい子
名古屋で起きた倉庫破り殺人事件を警察が追う。刑事部長は、キャバレー「タイガー」の社長が怪しいとにらみ、店に出入りし、買収されたふりをして情報をつかもうとする……。刑事部長に殿山泰司。キャバレーの社長を演じる嵯峨善兵は、日映演の東宝支部中央執行委員、産別会議の副委員長として東宝争議を指導。争議後は伊藤武郎らと自主退社し、新星映画社を創立する。この時期は民藝所属。ダンサー役の左京路子(のち未知子)は劇中で歌を披露する(左京は新東宝倒産後、バンドを組んでクラブなどに出演していた)。特筆すべきは、現在、作詞家兼音楽評論家として活躍する湯川れい子の女優時代の姿が見られること。彼女は近藤宏同様、当時すでに湯川れい子の芸名で土曜会(芸能プロ)に所属していた。
④ 『犯罪地帯を捜せ』(1958年6月1日封切)41分
[製作]松丸青史 [監督]森園忠 [脚本]阿部桂一 [原作]樫原一郎
[出演]高野二郎、河上敬子、安田正利、石島房太郎、田中一彦
横浜の河に労務者風の若い男の絞殺死体が発見される。被害者は麻薬中毒患者だった。刑事とその娘で女医、彼女の恋人の刑事の努力で、被害者の身元は割れ、犯人を追いつめる。製作の松丸青史は民藝プロデューサー。のちに新星映画社で『君が若者なら』(1970年)、『軍旗はためく下に』(1972年、共に深作欣二監督)をプロデュースする。監督の森園忠は、大映から松竹へ移籍。そこでレッドパージされて民藝へ。新星映画社では松丸のプロデュースで『この青春』(1971年)を監督した。捜査二課長の石島房太郎は前進座出身で東宝レッドパージ組。後年、東映東京のセミ・ドキュ『警視庁物語』シリーズに出演する。
⑤ 『群衆の中の殺人』(1958年6月29日公開)48分
[製作]佐生正治 [脚本・監督]中川順夫 [撮影]岡田三八雄
[出演]坪井研二、江見渉、森肇、島崎和子、山本千鶴子、奈和玲子
競馬場で衆人環視の中殺人事件が起こる。消音銃を使った殺人で、被害者は麻薬常習者であることが分かった。被害者の妹はドライブ・クラブで働いていたが、殺された兄にも給料が出ていた。刑事が身分を隠してクラブに潜入捜査をするが……。製作の佐生正治はおそらく佐生正三郎の別名。中川順夫は、戦前は新興キネマを皮切りに、理研映画、読売新聞社映画部、日映を転々とし、主に科学映画、教育映画、報道映画を監督。戦後は、記録映画『風雪との斗い』(1950年)、ピンク映画出現以前のバーレスク映画『裸の天使』(1950年)、さらには安藤昇主演の『やくざ非情史・血の盃』(1969年)やピンク映画(ときに伊世亜夫名義を使用)など幅広い作品を監督したほか、鈴木清順のデビュー作『港の乾杯 勝利をわが手に』(1956年)の脚本(浦山桐郎と共同)を書くなど、脚本家としても活躍した。彼のフィルモグラフィもまた節操がない。