撮影台本で自慰場面を検証する
三國が急遽思いついて追加したという、この自慰場面は映画のどこに挿入されたのか、台本を読むとおおよその見当をつけることはできる。冒頭の村祭りの場面で、祭りの輪を抜け出した善八(山本学)と繁子(志村妙子=太地喜和子)が羅漢像の前で求めあうというシーンだ。台本では次のようになっている。
④ 羅漢像の前
立ちならぶ羅漢像。
聞こえて来る太鼓の音。
笹が風に吹かれ、ザワザワなる。
何かを期待しながら、ゆっくりと歩いてくる繁子。
突然、思わぬ方向から、ぬっと現われる白い衣裳をまとったままの善八。
と、繁子、急にけたたましく笑い声を立てて、一方へ逃げ出す。
善八、そそられて衣をひるがえして追う。
太鼓の音、一きわ激しくなる。
善八、ついに繁子を捕まえ組み伏せる。
繁子、尚も抵抗しながら、
繁子「人が来るってば馬鹿」
犬がいやしくメス犬の尻を追っている。
善八「頼むから……な……おれにこれ以上、我慢出来ねえ。苦しくて……」
繁子、クックッと咽喉の奥でかすれた笑い声を立てる。
繁子「……みんなにそう云ってるんだべ……」
善八、手を放して、荒々しく立ち上がる。
善八「そんな風に思っているのか……いいさ……これっきりだぞ」
ためすように見上げていた繁子、善八の白い衣裳の端を押さえて、
繁子「……ううん……いやだ」
善八、激しくのしかかって行って、口を吸う。
善八「……何故、目をつぶっているんだ」
繁子「何も見たくないも」
尚も激しく愛撫する善八。
繁子「ねえ、あんたは私のどこが好き」
善八「全部さ。だけどお前の体ってよ、すごくすべっこいな……」
繁子「……フン……」
善八、荒々しく、繁子の胸をはだけて顔を埋める。
――犬の交尾――
⑤ 寺境内(夜)
高潮する太鼓のリズム。
泣いている天女像等々。
⑥ 寺の境内(夜)
添い寝をして、たわむれている二人。
太鼓の音、かすかに聞こえて来る。
善八「……他の男にも、こんなことさせるのか……ええ……?」
繁子、両手で顔を覆って恥ずかしそうにしている。
繁子「馬鹿なこと云うもんでねえよ」
と、裾を直すようにして起き上がる。
繁子「何で私、あんたなんか好きになったんだろう……私って不幸な女だわ」
善八、笹をひきちぎり丈夫そうな青白い歯でかみくだく。
繁子「……嫁さんの決まった人に惚れるなんて……」
善八「……お前さえその気なら、おらいつでも八重なんか」
繁子「そんなこと……」
髪をかき上げた繁子の顔に雨が落ちる。
⑦ 坂道(夜)
大粒の雨が降り出し、村人たち、われ先に提灯を持って駆け下りていく。
二匹の犬(交尾終わって)
⑧ 雑貨屋(夜)
雨やどりしていた善八、派手な女のワンピースに目をとめる。
善八「……一寸、それ見せてくれや……」
店の女房「(ニヤニヤしながら)駄目だよ、女の子泣かしちゃさ……」
と、着物をおろして渡す。
善八「……へっ……」
女房「評判だから……」
善八、正札をひっくりかえしてみて、懐から、しわくちゃの札をとり出し、ポイと投げワンピースを、自分の着物の下にねじこむ。
善八、外をうかがう。
激しく降る雨。