『聞き込み』
『警視庁物語 聞き込み』ポスター
『警視庁物語 聞き込み』
⑭『警視庁物語 聞き込み』(1960年6月21日公開)52分
[監督]飯塚増一 [脚本]長谷川公之 [撮影]三村明
[事件名]石川平作殺害事件 [事件発生場所]沼袋(石川靴店) [その他の主要なロケ地] 西武線東伏見(分譲地案内所)、中野?(不動産屋)、新宿(不動産屋)、高田馬場(小料理屋「小春」)、新井薬師、港区麻布鳥居坂(警視庁保護所)、銀座並木通(純喫茶「スワン」)
ある日、捜査第一課へ松本うめという老婆が、靴屋を営む弟の石川平作が突然行方不明になったと訴えてきた。事情を聞くうちの刑事たちは不吉な予感にとらわれた。身元調査課の書類を調べ、多摩川で発見された身元不明の溺死体の写真を見せると、老婆は弟の名を叫んだ。老婆の証言によって、彼が所有する駅前の土地が何者かの手によって売却されていたことが判明する。計画的な殺人事件と睨んで、捜査は犯人の逃亡を恐れ、捜査本部を設けずに内密に活動を開始した……。
前作『血液型の秘密』との2本撮りの1本で、ロケ場所も前作同様に高田馬場を起点に、西武新宿線沿いが多いのは撮影時の移動時間の節約のためだろうか。と思っていると、前作でも登場した民謡酒場が登場し、こまどり姉妹が特別出演して歌を披露する。この場面では前作も同じ場面に女給役で出演していた山東昭子がまたも女給役で出ており、余程予算とスケジュールに余裕がなかったのか、セットの流用も目立つ――などと思いながら見ていると、刑事が新井薬師の重要参考人の家が前作に登場した今井俊二が演じた卑劣漢の家と分かったあたりから、本作が2本撮りという条件を逆手にとって、続篇だと分かる仕掛けになっている。
参考人として警視庁に連れてこられた容疑者の情婦(八代万智子)の証言によって、犯人の殺害場面が全篇スローモーションで再現される場面は、本シリーズでもかなり異色。事件を客観的かつ実証的にセミドキュメントのスタイルで描く本シリーズで回想場面があること自体も稀だが、それがスローモーションで挿入されるとは(ただし回想についてはこれ以降多くなる)。なお、長谷川公之の脚本では、回想シーンは「サイレント」とだけあり、「スローモーション」という指定はない。
結末部も珍しく堀雄二が変装して囮捜査で、犯人を誘い出すという趣向。ユーモアと皮肉の利いたラストには、前作『血液型の秘密』で苦いやりきれない思いをした観客も歓声をあげることだろう。