『野良犬』(1949年、黒澤明監督)が公開されたちょうどその頃、イギリス映画『兇弾』(1950年、ベイジル・ディアデン監督)が、『裸の町』(1948年、ジュールス・ダッシン監督)に続いてようやく日本でも公開された(1950年8月15日公開)。
バルコン・タッチの犯罪映画
『兇弾』は、イーリング社のプロデューサーであるマイケル・バルコンが製作した作品のひとつで、劇映画とドキュメンタリーを混淆させた、いわゆる“バルコン・タッチ”の犯罪(捜査)映画を代表する作品。強盗殺人を犯した不良青年とそれを追いかけるスコットランド・ヤードの活躍を描いた映画である。不良青年を演じたダーク・ボガードは、これが出世作になった。
『裸の町』に比べて、容易に見られないこともあって現在では忘れられた映画という感があるが、たとえば、東映の長寿犯罪捜査映画シリーズ『警視庁物語』の脚本家である長谷川公之は、影響を受けた作品として、『裸の町』と並んで『兇弾』の名前を挙げ、そこに登場する古株の巡査と新人巡査とのコンビの描き方には強く触発されたと証言している(1998年3月24日筆者によるインタビュー)。
脚本はイーリング・コメディの代表的脚本家のT・E・B・クラーク。彼は戦時予備巡査だった経験がある。その経験を生かして『兇弾』の脚本を執筆したという。監督のベイジル・ディアデンは、このあと同傾向の『波止場の弾痕』(1951年)、『暴力のメロディー』(1958年)などを監督し、イーリング・スタジオ出身の監督の中でもっとも多作で、バルコン・タッチの犯罪映画の代表的監督となる。
ディアデンと『兇弾』については、「映画の國」の吉田広明さんのコラム
「海外版DVDを見てみた 第18回 ベイジル・ディアデンを見てみた」で詳述されているが、もう一度おさらいしておきたい。