コラム 『日本映画の玉(ギョク)』 近藤明男が語る三隅研次・増村保造のことほか   Text by 木全公彦
『妻二人』のこと
――近藤さんがいちばんお付きになったのは増村さん?

近藤本数からいえばそうです。大映で『妻二人』と『やくざ絶唱』、それから行動社で『大地の子守歌』と『曽根崎心中』、角川で『この子の七つのお祝いに』(82年)。

――『やくざ絶唱』はもっと評価されてもいいと思うのですが、『妻二人』はあまり感心しません。

近藤ストーリーを見せるだけで精一杯という感じはしますね。

――岡田茉莉子も合ってないような気がします。

近藤(笑)。二大女優の競演ですね。片や松竹の大女優、片や大映の大女優。最後の警察のところですが、岡田さんと若尾さんが対峙して睨みあう場面がありますね。カットがかかってどっちが先に視線を外すか、僕ら助監督たちは予想するのが楽しみでね。どっちだと思います?

――さあ? 若尾さんですか。

近藤残念! 岡田さんです。役柄的には若尾さんが貞淑な奥さんの役。岡田さんはバーのホステスの役。それが睨みあっているわけでしょ。ところが先に視線を外したのは岡田さんだった。そういうことが助監督には楽しみでした。

――増村さんの『音楽』(72年)にはお付きになっていますか。

近藤付いています。

――これは増村さんというよりも藤井さん主導の企画ですね。その前には松竹で中村登が浅丘ルリ子主演でやろうとした。

近藤いろんな人がやりたがってました。これは三島さんの奥さんが藤井さんにプレゼントしたもの。タダで原作を渡して。行動社という名前も三島さんがつけたものだし、やらないわけにはいかなかった。

――それが大失敗だった。フロイドと増村さんじゃ合わないですよね。無残な失敗作で。

近藤増村さんに文芸作をやらしちゃダメなんですよ。特に川端さんとか三島さんとか、純文学はダメ。『華岡青洲の妻』も悪くないけど、本来は増村さんの材料じゃない。増村さんは『妻は告白する』(61年)とか『「女の小箱」より 夫が見た』(64年)とか、ああいう自由に作れる余白のある小説ならいいですね。

――円山雅也とか黒岩重吾とか梶山季之とかの、ジャーナリステックないわゆる大衆小説。

近藤そのへんは市川崑さんと違う。

――増村さんはダボハゼ・タイプで自分が苦手な題材でも断らないで何でも撮っちゃう。

近藤頭がよすぎるから自分の力で何とかなると思っちゃうのかね。

――ネタを探すために車を使わず、列車で移動して読書をしているとか。

近藤いや、読んでいるのは将棋の本か「文藝」という文芸誌ぐらい。あんまり原作を探して読んでいるという感じじゃない。