コラム 『日本映画の玉(ギョク)』 井上昭が語る三隅研次   Text by 木全公彦
牧浦地志と内藤昭
――三隅さんといえば、キャメラマンは牧浦(地志)さんが多いですね。三隅さんは牧浦さんにあれこれ注文を出すんですか。

井上あまり出す方じゃないですね。牧浦さんは僕も何本もやっているけど、芝居のことがよく分かる方で、ある意味では宮川さんより優秀なキャメラマン。僕はほかに森田(富士郎)君ともよく組んだけど、牧浦さんも森田君もなにも言わなくても画は任せられる人。

――お二人とも割と大胆で、実験的なこともされますね。

井上手持ちキャメラを使ったりね。

――井上さんと森田さんは“大映京都のヌーヴェル・ヴァーグ”ですからね(笑)。

井上(笑)それで上層部には不興を買ったりして、もう二人は組ませんと言われたりした。それでもっとオーソドックスな撮り方をする竹村康和さんと組まされたりしました。

――牧浦さんは三隅さんと組まれた『座頭市物語』(62年)のタイトルバックでソラリゼーションを使ったり、研究熱心な方ですよね。座頭市では、盲人の色彩感覚を調べるために大学病院の先生に聞きにいったりもしたそうです。

井上テレビの座頭市で勅使河原(宏)さんがやったのは牧浦さんじゃなかったっけ?

――あれ(『新・座頭市』第3シーズンより『虹の旅』『夢の旅』)は森田さんですね。でも牧浦さんもテレビの座頭市もたくさんやっています。

井上それだけ勝ちゃん(勝新太郎)に信頼されていたんでしょうね。牧浦さんは演出がよく分かる人だから、たとえば僕が役柄について、「この役は赤色、この役は緑、この役は紫」とか「この人はピアノで、この人はチェロ」とか感覚的な言い方してもすぐに分かってくれる。ほかの人じゃダメですよ、こういう言い方は。

――井上さんが牧浦さんと組まれていて、もっと具体的なエピソードはありますか。

井上う~ん、すぐには思い出せないけど。

――三隅さんとよく組んでいたということでは美術の内藤昭さんも演出がよく分かる人ですよね。

井上そう。内藤君の師匠は水谷浩でしょう。水谷さんがセットのスケッチを描きますね。それを内藤君が具体的に通し絵や平面図にしなきゃならんわけですね。ずいぶんそれが勉強になったんとちゃいますか。人の出入りや芝居どころを考えた上で図面にしていく。それは西岡(善信)さんもそうですよ。演出のことまで考えて口を出すというのは、僕は大変ありがたいですね。そういうのを嫌がる監督もいますけど。僕なんかは内藤君が意見を出してくれるんで、その意見を受け容れる場合も、逆に受け容れない場合でも、その意見があるからできるんで、ずいぶん助けてもらいました。あるとき、居酒屋のセットを組むとき、なるべく撮りにくいセットを組んでくれと頼んだことがあった。そういうのをおもしろがってくれるんだね。それをまたキャメラマンがどう撮るか、というところがおもしろい。まあ内藤君も森田君も年代が一緒だから気安いというのがありますね。