映画の中のジャズ、ジャズの中の映画 Text by 上島春彦
第41回 60年代日本映画からジャズを聴く   その3 ジャズから現代音楽、ソフトロックまで、八木正生
八木のアルバムを幾つか紹介
さて早速、八木のジャズ関連アルバム。ないようで探せばこんなのもある。
そのアルバムの解説はこう始まる。「2000年代中頃より『和ジャズ』という造語が生まれ、ガイド本も出版されるなどちょっとしたブームとなった。『和ジャズ』とはそのものズバリ、日本で生まれた日本人ミュージシャンによるジャズのことを指している。(略)特に塙耕記氏と尾川雄介氏による『和ジャズ・ディスク・ガイド』(リットー・ミュージック刊)は今までにない画期的なガイド本で、それまで断片的であった和ジャズのアーカイブ化を推し進めると共に、さまざまなレア・アルバムの復刻に多大なる貢献を果たしている。ただ、ジャズという音楽自体が一般的なポップスとは異なる趣味性の高いものなので、どうしてもマニアックなブームの域を出ないというのが実情ではないだろうか。そこで、そうしたブームの外側にいる人たちに向けて、改めて国産ジャズの魅力を知ってもらおうと編纂したのが本コンピレーション・シリーズである」。そういうことです。「和ジャズ」の名盤から選りすぐりの楽曲ばかりを収録したこのシリーズ、意図的に横文字だけでタイトルが構成されていて、書きしるすのが面倒で仕方ないのだが“WAXPOETICS JAPAN COMPILED SERIES/KING OF JP JAZZ”という。「ワックス・ポエティックス・ジャパン」という音楽雑誌があり、キングレコードと組んで三枚のコンピ盤を作った。「60年代から70年代 ドゥー・ステップ」「70年代 ソウル・バンブー」「70年代から80年代 ミックスド・ルーツ」である。ホントはこれも全部横文字だが日本語で勘弁して下さい。
この盤の一枚目、三枚目に八木がピアニストとして、或いはアレンジャーとして参加したアルバム(からの楽曲)がフィーチャーされている。アルバム・タイトルだけ挙げておく。「ジャズ・インターセッション」(キングレコード、以下同)「山女魚(やまめ)」「インガ」である。八木がリーダーとなったのは「インガ」のみ。中身の方は今回のテーマから離れるので述べない。良い企画CDシリーズなので是非どうぞ。「和ジャズ」という言い方は確かに最近よく耳にする。これからは「JPJAZZ」と言うようになるのかは神のみぞ知る、だ。ジャズは聴かないが和ジャズは聴く、という聴衆層が果たして存在するのだろうか。そういうのも何か無気味な気がするが。リーダー八木のジャズ・アルバムに関しては後ほど戻ることにしよう。
一方、八木の映画音楽集として最も知られるCDが「日本の映画音楽/八木正生の世界」(東宝ミュージック、ポリスター)である。もともとは78年発売のLP。このシリーズには他に「黛敏郎」「林光」「真鍋理一郎」等もあり、見逃せない。LP規格なので収録時間が五十分弱と、昨今のCD仕様のコンピ盤に比べるとやや短いのは難だが、インタビューが懇切丁寧で有難い。今回の記述では色々引用させていただくつもりである。
こ二十年くらいで日本映画も作品ごとのサントラ盤リリースが一般的になった。だが八木が活躍したのは60年代以降の三十年弱ということもあって、個別のサントラ盤は比較的少ない。それでも入手しようと思えば何とかなるものもある。まず東映からのサントラ盤に注目しよう。スター中心の会社なのでアルバム・タイトルを見ただけではわからないが「東映傑作シリーズ 梅宮辰夫」(東映音楽出版)は「Vol.1」「Vol.2」と二枚あり、前者は『不良番長』『不良番長 猪の鹿お蝶』の音源を、後者は『不良番長 練鑑ブルース』『不良番長 どぶ鼠作戦』の音源をそれぞれ収録したものだ。同様に「東映傑作シリーズ 若山富三郎」には『極道VS不良番長』の音源が他作品に混じって収録されており、「東映傑作シリーズ アダルト篇」には『女番長 三匹の牝蜂』『徳川女刑罰史』『元禄女系図』と八木作品が三タイトルも聴ける。新譜屋さんには置いてないだろうから中古ショップで見つけてね。また近年はこのシリーズの幾つかがネット配信されるパターンもあり、その内に八木作品の配信も始まるかも知れない。91年に亡くなった八木晩年の最も知られた作品は和田誠監督『快盗ルビイ』(88)に違いない。サントラはビクターエンタテインメントよりリリースされているが、これも現在入手は困難な模様。ネットで見つけるのが一番かも。ここに最近さらに数枚のサントラが加わり、それが本稿執筆のモチベーションともなったわけだが、それは後述としよう。
八木の仕事を確認するためのアルバムとして現在最も簡単に入手可能なのは意外とこれか。「八木正生 CM WORKS ft.伊集加代」(SOLID RECORDS)、内容はタイトルを読めばわかるが、収録音源が制作されたのは68~69年に限られているようだ。解説によると「三木鶏郎企画研究所所有の音素材をもとに編んだ」とのことで、「おそらく三木鶏郎が主宰したテレビ工房から八木に発注された作品」であろうとのこと。「フィーチャリング伊集加代」ではあるが他のヴォーカリストも沢山参加している。それで本稿執筆のために本CDを引っ張り出してきて初めて聴いたわけだが、インデックスを読んで「ネスカフェ」の音楽が八木正生だと初めて知った。「ネスカフェ・ゴールドブレンド」のあの有名なダバダバ・スキャットが「八木&伊集」コンビの仕事だったのだ。不勉強ですみません。正式タイトルは「めざめ DABADA」だそうだ。この楽曲はこちらのアルバムには収録されていないが、伊集自身のリクエストにより、彼女のファースト・アルバム「MY TRIBUTE ISHU KAYOKO 1ST」(ビクター)にちゃんと収められた。「ゴールデン洋画劇場」のタイトル・ミュージックよりも明らかにこのCM音源の方が知られている。
テレビがらみで言えば、もう一つ忘れてはいけない八木の仕事として『あしたのジョー』の音楽担当というのもあった。私はリアルタイムで見ているが、それは70年代初頭のことであり、少年マガジンで原作が連載されていたのと並行して放映されていたと記憶する。アニメが原作に追いついてしまい、にっちもさっちも行かなくなって仕方なくジョーは旅に出て終わってしまった。最近アニメにあまり興味がなくなってしまったために、ショップのそのコーナーを覗いていない。だからどういうリリース状況かよく知らないのだが、テレビ版の『あしたのジョー』はずっと後になってリメイク(正確にはリメイクではないがとりあえずこう呼ぶ)されたはずだ。それで、そちらの方の音楽は八木ではない。映像の方は簡単に入手できるのかどうか、ちょっとわからないが、リメイク版の方が映像的に洗練されていたのは疑う余地がない。テレビアニメだからどっちも動きはたいしたことがないけれども、リメイクの方が透過光による表現が上手かった。流行りだったか、あるいは先駆者だったのか。演出はどちらも出崎統(が中心)。リメイク版の音楽は荒木一郎で、これにも当然ファンは多いはずだが、本稿からは外れるために言及しない。サントラ盤は色々と出ているものの「八木で聴く」なら「あしたのジョー 虫プロミュージッククリップ⑥」(EMIミュージックジャパン)が最適である。