『良き時代、すばらしき時代』パーティの人々.
DVD-BOX「Coffret Lionel Rogosin」
『良き時代、すばらしき時代』
『良き時代、すばらしき時代』は、ロンドンのパーティで与太話をしている男女の映像と、戦争の惨禍を交互にモンタージュすることでできた映画だ。題名は、第二次大戦の退役将校かと思われる人々の食事会で、ある男が口にする言葉から取られている。「あの頃はよかった」という意味である。パーティでは、従軍経験がある若い男が「戦争は人口過剰を抑える手段の一つ」と言うが、その言葉も何度も繰り返し現れ、強制収容所で抹殺されたユダヤ人の死体の山がモンタージュされたりする。ロゴージンらスタッフは、戦争の映像を集めるのに何年もかけたというが、正直なところ、だからどうした、という映画だ。「戦争廃絶!」、「無関心はいかん」というメッセージはうるさいほど伝わってくるが、映画的な感動が微塵もない。ここにあるのはただ意味であり、イメージがそれを凌駕する瞬間が見当たらないのだ。
その後ロゴージンは長編映画としては他に、アフリカのミュージシャンが一室に集まり、アメリカでの経験を語ったり、歌ったりするという『ブラック・ルーツ』Black roots(70)、内容不詳の『ブラック・ファンタジー』Black fantasy(72)、『深南部の樵』Woodcutters of Deep South(73)を撮っているが、筆者は見ていない。しかし、やはりロゴージンの最良の作は『バワリー25時』であった、と断言して良いと思う。ドキュメンタリー映画が何らかのメッセージを伝えるために撮られることは確かだとしても、メッセージにイメージが拘束されてしまうと、ドキュメンタリー映画は、「映画」であることすら止めてしまう、という厳しい教えをロゴージンの作品は教えてくれている。アメリカ・インディペンデント映画の全体像、その中でのロゴージンの位置についても書くべきだったが、それはまた改めて書く機会を設けたいと思う。
Coffret Lionel Rogosin: On the Bowery; Come back, Africa; Good times, wonderful timesはフランスのCarlottaから発売。三枚組、英語および南アフリカの地元言語(仏語字幕付き)。Pal版、リージョンは日本と同じ。2006年にチネテカ・ボローニャが主導でレストアされた版で、映像は極めてクリア。それぞれの作品につき、ライオネル・ロゴージンの息子たちが製作、監督したメイキング短編がついている。