『漂流死体』
『漂流死体』(1959年)
毎朝新聞社の横浜支局に勤める新聞記者の永瀬(三國連太郎)は、立ち回り先の神奈川県警で、米軍基地の関係者が県警を訪れたことを知る。米軍基地に勤務するアメリカ兵ロバーツが行方不明になったので捜査協力を県警に申し入れたのだ。ロバーツは情報関係の任務につく一方で、中国語が堪能でメンゼルという名前を使って貿易商もやっていた。やがて事件を追っていた県警の佐々木刑事(河野秋武)が他殺死体で発見され、続いてロバーツも漂流死体として芝海岸に浮かんだ。事件がただごとでないことに感づいた永瀬は、ロバーツが諜報関係者だったことを知る。事件の背後に大陸との大がかりな国際密輸組織がからんでいるとにらんだ永瀬は、殺された佐々木刑事が、その夜に姿を見せていたキャバレーを経営する黒崎(小沢栄太郎)に探りを入れるが、そこに警察が踏み込んできて闇取引の容疑で黒崎を逮捕してしまう。永瀬はキャバレーの女歌手エミ(小宮光江)が、何か事情を知っていると目星をつける。
『国際スリラー映画 漂流死体』と副題が表記された資料もあるが、ポスターも映画タイトルも副題なしの『漂流死体』。プロデューサーは『警視庁物語』シリーズの生みの親・斎藤安代。物語は白石浩三というライターのオリジナルらしい。関川の前作『獣の通る道』(1959年)は、Jフィルム・ノワールと呼ぶには中途半端なアクションドラマで、ギャングの手先として働く不良少年(中村嘉葎雄)と彼を助ける仮釈放中のバーテンダー(高倉健)を中心にしたあまりピリッとしない作品だったが、ギャングを演じる木村功が特攻くずれで目尻に傷跡があるため、映画の後半までサングラスを外さないという屈折したキャラクターだけが見るべきものがあった。だが本作『漂流死体』では『警視庁物語』で培ったロケーションを効果的に使ったセミドキュの手法を取り入れ、モノクロの陰影のある映像(撮影は名コンビ仲沢半次郎)でハードボイルドなタッチのミステリ・ドラマになっている。
キャストは県警側に、永田靖、松本克平、加藤嘉、石島房太郎、花沢徳衛。新聞社側に、三國以下、南広、神田隆、増田順二、堀雄二、永井智雄、浜田寅彦、高倉健、清村耕次という面々で、永井智雄なんか電話の受け答えで「へい、へい」を連発して、まるで日活『事件記者』シリーズと同じノリ。
惜しむらくは、このような作品は三國の視点で語りを通すべきなのに、県警と新聞社とさらに三國という三者の視点で語られ(その割に新聞社側の豪華なキャスティングをうまく生かされていない)、求心的に事件捜査の過程が描かれていないから、いささか散漫になり真相究明の過程が緊張感に欠くところ。これは構成の甘さからくる計算ミスか。ほかにはミステリアスな導入部に比べて、途中で犯罪の背後組織を分からせてしまうため、ミステリが持続しない。また後半は次第に事件を知るエミが三國に惹かれる姿を通して、物語が語られていくのだが、どうもそのあたりハードボイルドな前半部と情緒的な後半部がちぐはぐな感じが否めない。とまあ、欠点は多いものの、前半部はすこぶるノワーリッシュな雰囲気が漂っていい感じなので、可能性に満ちた作品だといえよう。
なお、本作は複数のウェブサイトで有料配信されていて、下記はその代表的サイト。
DMM配信『漂流死体』