映画の中のジャズ、ジャズの中の映画 Text by 上島春彦
第33回 アンドレ・プレヴィンのジャズ体験   その8 西海岸派ジャズマンとしての勲章
ジャック・ケルーアック
悪名高き『地下街の住人』達
映画『地下街の住人』“The Subterraneans”(監督ラナルド・マクドゥーガル、60)は忘れられた作品と言うべきなのか、それとも違うのかビミョーな映画。実は私も見ていない。あまり多くの人に見られていない作品だ。それというのもこの作品が語られるとしたら「MGM史上に残る駄作」という文脈においてがほとんどなので、要するに「皆さん早く忘れて下さい」という映画になっている(らしい)。その音楽担当者がアンドレ・プレヴィンなのである。ところが近年この失敗作にスポットライトが当たり始めた。この件から今回はスタートしたい。

本作が突然脚光を浴びることになった理由は、もちろん現在「クラシックの指揮者として大活躍中」であるプレヴィンの参加故なのだが、それが同時にジャズマンとしての彼の姿を同時代的に捉えているところに貴重さがあるわけだ。オリジナルサントラ版はMGMレコードから出ているが最近さらに未発表(映画に使われなかった)テイクを追加した版がレーベル「フィルム・スコア・マンスリー」“Film Score Monthly”からリリースされた。正式タイトルは“Original Motion Picture Soundtrack The Subterraneans”(TCM)である。オリジナル版もCD化されているが、どうせならこちらを購入するべき。プレヴィンの映画音楽家としてのキャリア上は丁度中間点の感じか。ただしMGMはこの頃からミュージカル映画以外の路線にも積極的になっていき、その分、プレヴィンも音楽的な要素を強調する映画でないものがぐんと増えていく。そういう意味でもこの映画はキャリアの結節点と言えそうだ。
『地下街の住人』は伝説的映画プロデューサー、アーサー・フリード(1894-1973)の最後の企画の一本であり、カウンターカルチャー(若者文化、対抗文化とも。主流でなく、それに抗する60年代以降のマイナーな反体制的文化を大ざっぱにこう呼ぶ。上島注)の実態を大勢の人達に供するための映画を作る、という「ハリウッドの最も不評に終わった試み」の一本でもある。新たなサントラ盤を監修したルーカス・ケンドールとジェフ・エルドリッジ(連名)はライナーノーツ冒頭にこう記した。以下、まずはこのノーツをじっくりと(端折りながらだが)読んでいきたい。