「パルズ」とは「フレンズ」のこと、念のため…
1956年版の「マイ・フェア・レディ」正式タイトル“Modern Jazz Performances of Songs from My Fair Lady”(Contemporary)とは正確にはプレヴィンのリーダー・アルバムではない。ジャズ史では常識だが以下一応おさらい。
これはドラマーのシェリー・マンがセッション・リーダーのトリオで、従って正式の名義は「シェリー・マン&ヒズ・フレンズ」によるものだ。パーソネルはマンのドラムスにプレヴィンのピアノ、リロイ・ヴィネガーのベースである。このアルバムの大ヒットのおかげでコンテンポラリーはビジネスの基盤を確立しプレヴィンはレーベルを代表するピアニストとなった(この録音時点ではデッカの契約アーチストだった)。ここから、「マンとプレヴィン」を主要メンバーに据えた「ミュージカル・ナンバーのレコーディング・セッション」がコンテンポラリー最大の売り物として成立。続々とアルバム化されていく。マンがリーダーだと名義は「マン&フレンズ」“Shelly Manne & His Friends”になりプレヴィンがリーダーならば「プレヴィン&パルズ」“Andre Previn & His Pals”となる。前者のアルバムには「マイ・フェア・レディ」の他に「リル・アブナー」“Li’l Abner”と「ベルズ・アー・リンギング」“Bells Are Ringing”があり、後者のアルバムには「パル・ジョーイ」“Pal Joey”、「ジジ」“Gigi”、「ウェスト・サイド・ストーリー」“West Side Story”等がある。後者はいずれも映画化されており『夜の豹』(ジョージ・シドニー監督)『恋の手ほどき』(ヴィンセント・ミネリ監督)『ウェストサイド物語』(ロバート・ワイズ監督)の邦題で公開されているが、コンセプトとしては原則、舞台ミュージカルのジャズ化である。ただし『恋の手ほどき』の音楽監督がプレヴィンだったことは本人が書いている。『ベルズ・アー・リンギング』は劇場未公開だがDVDで出た。『キャメロット』のジャズ版はコンテンポラリー録音ではなかったものか。このへんはCD化が進んでいないものも多いのが残念だ。
プレヴィンのピアノ・トリオにはマンをドラマーにしていないアルバム「キング・サイズ!」“King Size !”「ライク・プレヴィン」“Like Previn”もある。そして映画に合わせて録音された方の「マイ・フェア・レディ」のパーソネルは「キング・サイズ!」のメンバーにギタリスト、バーニー・ケッセルが加わったものだ。基本的にはプレヴィンのレギュラー・トリオが「キング・サイズ!」におけるレッド・ミッチェル(ベース)とフランク・キャップ(ドラムス)、という組み合わせと考えられる。ここではプレヴィンのジャズ・ピアニストとしての完璧なディスコグラフィを提示するのが目的ではないので、あくまでトリオ・スタイルのものに限って名前を挙げているが、その出発点は「マイ・フェア・レディ」に半年先立つ「シェリー・マン&ヒズ・フレンズ」“Shelly Manne & His Friends, Vol.1 with Andre Previn, Leroy Vinnegar”だということは記しておかねばならないだろう。全てレーベルはコンテンポラリーである。