監督：ミケランジェロ・アントニオーニ
出演：リッラ・ブリニョーネ/ロッサナ・ロリ/ミレッラ・リッチャルディ　ほか

コミュニケーションの断絶をテーマに映画を撮り続けているイタリアの名匠ミケランジェロ・アントニオーニ。都会で生活する男女の不条理な恋愛感情をモノクロのクー ルな映像美で描いた本作は 「情事」「夜」と並ぶ彼の代表作。冷たい美貌のアラン・ドロンとアンニュイ女優Ｎｏ．１のモニカ・ヴィッティが繰り広げる出会いと別れのドラマは今みても謎めいて衝撃的。心理的リアリズム手法によるラブストーリーの傑作。カンヌ国際映画祭審査員特別賞受賞。

監督・脚本：アルノー・デプレシャン
出演：カトリーヌ・ドヌーブ、マチュー・アマルリック、メルヴィル・プポー　ほか

「そして僕は恋をする」で仏映画界に新風を吹き込んだアルノー・デプレシャン監督の傑作ファミリー・ドラマ。 Ｃ・ドヌーヴ、Ｍ・アマルリック、Ｍ・プポー、Ｃ・マストロヤンニ等、オールスターキャストで贈るクリスマスの夜の物語。久しぶりに再会した大家族に微妙な気持ちのすれ違いや過去の秘密が顔をだし・・・。人生の喜怒哀楽を極上のウィットとユーモアで包んだ群像劇に心はホッコリ。キャリア最高の名演と称えられたドヌーヴの存在感も必見。

監督・脚本：グザヴィエ・ボーヴォワ
出演：ランベール・ウィルソン/マイケル・ロンズデール/オリヴィエ・ラブルダン　ほか

１９９６年にアルジェリアで起きた、武装イスラム集団によるフランス人修道士７名の誘拐・殺害事件を題材にした本作。サルコジ政権下、社会問題になっているイスラム教との対立について一石を投じたこの映画はフランス国内で３００万人の大ヒットを記録、カンヌ映画祭でグランプリを受賞している。ゴダール作品で有名な撮影監督C・シャンプティエによる絵画的場面の壮絶な美しさとフランスを代表する名優たちによるリアルな演技に酔わされる逸品。

監督：ブライアン・デ・パルマ
出演：クリフ・ロバートソン/ジュヌヴィエーヴ・ビュジョルド/ワンダ・ブラックマン　ほか

邦題の甘さにだまされてはいけない。原題は“オブセッション”、監督はあのブライアン・デ・パルマだ。サスペンス映画の最高峰ヒッチコックの「めまい」に想を得て、数奇な運命をたどる親子の姿をミステリアスに描いた初期の傑作。ヒッチ作品の常連作曲家バーナード・ハーマンによる華麗なスコア、名カメラマン、ヴィルモス・ジグモンドのソフト・フォーカス映像、ヒロイン役ジュヌヴィエーヴ・ビジョルドの可憐さ。全てがパーフェクト！

監督：ペドロ・コスタ
出演：ジャンヌ・バリバール/ロドルフ・ビュルジュ/エルヴェ・ルース/アルノー・ディテリアン　ほか

アルノー・デプレシャンやジャック・リヴェットらフランスを代表する映画作家のミューズとして 知られる女優ジャンヌ・バリバールが「ヴァンダの部屋」で今、最も注目を集めるポルトガルの 鬼才ペドロ・コスタとタッグを組んだ夢の映画。歌手としても活躍するジャンヌのライヴリハーサルや コンサートの模様をシャープなモノクロ撮影でとらえたオシャレでムーディーな映像に、大人の女とはこれか、、、 とうなずくのみ。J・バーキン好きには必見！

監督：大島渚
出演：横尾忠則/横山リエ/佐藤慶/渡辺文雄/戸浦六宏/唐十郎/田辺茂一　ほか

誤解を恐れずに言う。映画監督大島渚はロック・スターである。反体制でスキャンダラスでカリスマ的なオーラを放ち常に何物かへの怒りを内に秘めた作家。変化を求め転がり続ける男。４０年以上も前に作られた本作が今もって面白いのは乱暴に言うと大島がロックの魂を持っているからだ。ストーンズやビートルズの曲がいつまでも新鮮なのと同じである。１９６８年夏、新宿で横尾忠則や唐十郎たちと一緒に革命を夢みて疾走した大島渚。ノスタルジーにひたることを決して許さない強靭な映像のコラージュ。性事と政治をリニアに語る自由奔放さ、今、だからこそ、これをまず買ってほしい。映画に何が出来るのかよくわかるはずだ。

監督・脚本：ミヒャエル・ハネケ
出演：クリスチャン・フリーデル/レオニー・ベネシュ/ウルリッヒ・トゥクール/ブルクハルト・クラウスナー　ほか

世の中で一番恐ろしい生き物は人間であるとミヒャエル・ハネケ監督は知っている。彼の映画では全ての登場人物が解剖学的な精密さで描かれ見るものを恐怖におとしいれる。ホラー映画でもないのになぜ恐いのか？それはスクリーンに映されている彼らが私たちの投影に他ならないからだ。カンヌ映画祭でパルムドールに輝いた「ピアニスト」「ファニーゲーム U.S.A」等、オンリーワンの個性でドイツ映画を牽引するハネケの集大成にして最高傑作。第１大戦前夜、ドイツの村を舞台に繰り広げられる犯罪劇はナチズムの予言かはたまたグリム童話の２１世紀的読み換えか。数多くの謎を映画に仕込みつつ、答えは全て観客にゆだねるという真に恐るべき映画ここにあり。

監督：ロバート・ロッセン
脚本：エイブラハム･ポロンスキー
出演：ジョン･ガーフィールド、リリ・パルマー　ほか

「ハスラー」「オール・ザ・キングスメン」等社会の裏側に光をあてた骨太な人間ドラマでいぶし銀のような魅力を発揮した名匠ロバート・ロッセン監督初期の名作。NYのロシア系ユダヤ人家庭に生まれた彼だからこそ描けた‘４０年代ブルックリンのリアルな雰囲気はフィルム・ノワールの色彩を帯びて秀逸。アマチュア・ボクサーがチャンピオンになるまでの挫折と栄光が、ジャズのスタンダードナンバー“ボディ・アンド・ソウル”の調べにのって語られメロドラマとしても一級品の出来栄え。赤狩りでハリウッドを追われたエイブラハム･ポロンスキーの脚本、ロバート･アルドリッチが助監督というボクシング映画ファンならずとも胸躍る１本。

監督・脚本：ミア・ハンセン＝ラブ
出演：キアラ・カゼッリ、ルイ＝ドー・ド・ランクザン

夫、妻、娘３人。５人家族の物語。何不自由なく幸福に暮らしていた一家に悲劇が訪れる。映画プロデューサーとして独立系の会社を経営していた父が、不況のあおりを受け資金難に陥り自殺。大黒柱の死という大きな事件がおきれば、映画は通常ドラマチックな展開を用意するものだが、この作品は正反対のベクトルへと向かっていく。残された者たちの日常を丁寧にすくいあげ日々の営みを淡々と描き、抑制された慎み深さで私たちの喪失の意味を問うのだ。不思議な事に物語を牽引する主人公はおらず、子供たちの自然で生命力に満ちた振る舞いやパリ郊外の美しい風景が画面に映しだされるのみだ。悲劇的な話を浄化し観るものの心に明かりをともすこの映画、只者ではない。カンヌ映画祭＜ある視点部門＞審査員特別賞。

監督：グル・ダット
出演：グル・ダット/ジョニー・ウォーカー

「ムトゥ踊るマハラジャ」のメガヒットによってインドの娯楽映画に多くの人が目覚めて早や１０年。社会現象にまでなったゆえの不幸か一過性のブームで終わってしまったのは残念であった。だが冷静になってよく考えてもらいたい。あれだけの面白さがつまった娯楽作が一朝一夕で登場する訳がない。歌と踊りのマサラ・フィルムの世界はまだまだ深いのである。それが証拠にこれを見てほしい。売れない詩人に恋した娼婦のメロドラマと格差社会批判のメッセージを盛り込んだネオレアリズモ的作風が見事に合体。尚かつ美しい音楽と幻想的なモノクロ撮影が超現実的な美の世界を現出させる。恐るべし、ハイブリットなインド映画の底力。

監督：ヴィットリオ・デ・シーカ
出演：カルロ・バティスティ/マリア・ピア・カジリオ/リナ・ジェナリ

わずかな年金で暮らす男ウンベルトはアパートの家賃値上げで部屋を出るはめに。愛犬フライクと行くあてもなく街をさまよう。物語はたったこれだけ。８９分の映画である。しかし、あなどらないでほしい。面白すぎる。身寄りのない孤独な老人の姿に現代日本の高齢化社会の話を重ねあわせて沈黙し、ローマの街を生き生きと描写するカメラに目をみはり、俳優の演技の適確さに舌を巻き、けなげな犬の仕草に心を奪われてアッという間に終わってしまうのだ。ヴィットリオ・デ・シーカ監督は「終着駅」や「あゝ結婚」「ひまわり」だけじゃない。ネオ・レアリズモ映画の時を越えた新しさは今一度再検証すべきである。希望と絶望が入りまじった美しいラストシーンは忘れがたい。