『法の名のもとに』ポスター
『法の名のもとに』連行されるポーランド女
『法の名のもとに』
『法の名のもとに』Au nom de la loi(31)は、麻薬の密売グループを追う刑事たちの物語。若い刑事が麻薬の密売組織の目星をつけるが、彼は死体となってセーヌ河に浮いているところを発見される。彼の殺害現場と思われるタクシーの座席には血痕が残され、上品な白いレースの手袋の片方が落ちていた。死んだ刑事の足取りをたどった刑事たち(うち一人がシャルル・ヴァネル)は、サンドラ(マルセル・シャンタル)という上流階級のポーランド女性に行き着く。証拠不十分で彼女を釈放せねばならなかった彼らは、南仏へ発った彼女を追うものの、途中駅で降りる振りをした女に見事に騙され、逃げられる。実は変装して同じ列車に乗り続けていたサンドラは、若い男と知り合い、彼に惹かれるようになった彼女は、彼を麻薬の取引現場にまで連れてゆく。しかしその男は刑事だった。一方、血痕の付いたタクシーの運転手を探し出した刑事たちは、彼の隠れ家で、大量の麻薬と、手袋の片方を発見。さらに事件の首謀者であるドイツ人の隠れ家を突き止めた刑事たちは、逮捕に抵抗する男たちと銃撃戦に。パリに戻ったサンドラは、窮地と知って逃げようとする。彼女に惹かれるようになっていた刑事は彼女を逃がそうとするが、仲間の刑事たちが駅で彼女を逮捕。刑事がレースの手袋を渡すと、それをはめてみせ、彼女は罪を認める。彼女は、移送中の車の中で自殺。今わの際に、あの男は私を裏切ったの、と問うが、逮捕した刑事はそれを否定、彼女は安堵したように息絶える。
当時としては珍しくパリやマルセイユ街頭でのロケ撮影を多用し、生々しい印象がある。冒頭での刑事の殺害からポーランド女にたどり着くが、いったん見失ったことから捜査の本筋はパリに戻り、しかし一方、マルセイユに向かうポーランド女に接近する男がいて、パリとマルセイユ、二つの地点での事件の進展を交互に見ることになる。物語自体は意外な展開ということはないものの、視点を二地点に設定しているのが効果的。タクシーの運転手を捕え、徹夜で尋問、夜が明けると刑事たちが届けられた朝食を摂るのだが、その場面が印象的。刑事たちは被告をほったらかし、まったく無言で、それぞれ籠からパンを取り、グラスを配り、ワインを瓶から注いで回す。その動作がすばやく、まったく無駄がない。あえて映すまでもない日常的な仕草であるが、食べることに執着するフランス人の気質(ジャック・ベッケルの『現金に手を出すな』のジャン・ギャバンがパンだったかラスクだったかをむさぼり食う場面を思い出した)、また何も言わなくてもそれぞれやるべきことをやっていると自然とまとまっているチームワークの固さが伝わってくる。ようやく自白した被告を連行していこうとする際、刑事がワインを一杯差し出すと、被告がクッと飲み干して「ありがとう」と言って去る。これも何ということはないが印象に残る仕草だ。
上記したように朝食の場面で刑事たちはまったく無言、しかも動作がテキパキと素早い。そっけないというか、ハードボイルドというか、これは映画全般に言えることで、南仏のメロドラマ的な場面も含めて、全般に無駄なく、過度な情緒なく話が進んでゆく(編集は息子のジャック・ターナー、彼は『被告人、立ちなさい』、『マルセイユのジュスタン』でも編集)。映画を見終わってみて、初めて音楽が一切なかったことに気が付くのだが、それもそうしたそっけなさの印象を強めることになる。『被告人、立ちなさい』に比べると、台詞よりもアクション、編集によって出来上がっている作品であり、その点我々が、現在の時点で見ても十分鑑賞に堪える作品。本BOXの中でも最良の作品だろう。