海外版DVDを見てみた 第25回 ウィリアム・グリーヴスの『テイク・ワン』 Text by 吉田広明
『テイク・ワン』ラストに登場する新たな俳優たち

『テイク・ツー』のグリーヴス監督と音声のスティーヴ・ブシェミ
続編『テイク・ツー 1/2』
この続編は二部に分かれる。『テイク・ワン』のラストで出て来た新しい二人の俳優(一人は白人男性、一人は黒人女性)のカップルが、同じようにリハーサルを延々とする所が捉えられている。『テイク・ワン』のラストで「テイク・ツー 近日公開」の文字を見た時は冗談としか思えなかったのが、実は本気だったということになる。グリーヴス監督は、これをシリーズ化する予定だったが、『テイク・ワン』を公開しようという配給業者が現れず、その計画は頓挫したということだ。まあ、頓挫してよかった、と思わないでもない。ともあれそれが第一部。第二部では、2000年代に時代が飛び、この第一部の男優女優が再び登場し、その後別れたものの今再会する夫婦を演じる。そしてその模様をグリーヴスが監督、音声をスティーヴ・ブシェミが担当して撮る、その様をまた別カメラが撮る、というわけだ。

第二部はヴィデオ撮りになっていささか画面に艶がないし、内容的にもこれ以上何を撮ろうというのか、との疑念が正直ぬぐえなかったのだが、二人の俳優の芝居が今回の映画では意外にも際立ってくる。設定としては、その後この二人は離婚、女はヨーロッパに渡り、歌手として成功している。男はエイズにかかり、余命少ない。そこで元妻に連絡を取り、会ってもらうことになった、というものだが、実は男には思惑がある。同病の死んだ男から、その娘の面倒を見てくれるよう頼まれていたのだが、死期が近づいた今、その娘を彼女に託そうというのだ。そのことを知った女は男の身勝手に怒りを覚える。

前作では夫婦喧嘩の場面が延々繰り返され、物語は進展せず、無論それは撮影を取り巻く集団の運動そのものを撮るという狙いからではあったにせよ、芝居自体を見せることが本意ではない、という建前だったのが、今回物語は進み、登場人物の感情の起伏が捉えられるわけであり、その点、いわば「普通」の映画としても見ることができる。ただし帰着点は決まっておらず、俳優たちが即興で演じながらそれを決定してゆく点、やはり「実験」的な映画ではあるのだが。ともあれ、元夫婦を演じる俳優たちは、また同じセリフを繰り返して演じつつ、よりよい演技と着地点を見出そうとするのだが、今回面白い(というか笑える)のは、助監督なのか何なのかよく分からないが、女性が演技指導的な役割で入ってきて、二人の即興演技を促す。その際、それぞれのセリフや身振りを真似で増幅して見せるので、男優、女優が次第にエキサイトしてくるのだ。それが芝居に入れ込んでいるからなのか、その女性にイラついているからなのかが実に微妙。喧嘩のようになってくるのだが、それが演技なのか、実際に喧嘩しているのかも分からない。監督グリーヴスがその光景にうろたえてカットを命じ、とにかくスクリプトに戻ろう、と何とかその場をやり過ごそうとするのもおかしい。

映画内映画としては、男がこれは、君が欲しがっていた娘を与えることなんだ、こういう形でしか僕は君への愛を表現できないのだ、というセリフによって急転、二人は和解し、女がその娘と会うことで終わりを迎える。『テイク・ツー』という映画自体もそこで唐突に終わってしまうので、前作と同じ肩すかし、脱力感、オフ・ビートな感触を見る者は感じることになる。映画内映画の方に多少の変化がある点が前作との違いであるが、狙いや作り方は前作と同じと言っていいだろう。しかし前作が持っていた時代背景、それゆえの熱気のようなものは拭い去られており、その点物足りない気がするのも確かだ。とすると逆に、どこまで本気だったかは分からないものの、『テイク・ワン』はやはりその時代(実験性、革新性、集団性)との緊張関係の中に紛れもなくあったのだということが、逆に浮き彫りになるようである。

『テイク・ワン』という映画が持っている60年代という背景、スタジオが崩壊し、メジャーでも、この映画を含むインディペンデントでも、新しい映画を追及していたこの時代が持つ熱気のようなもの、猥雑さ、それについてはまた新たに語られる必要があるだろうし、これまで書かなかった『シンビオサイコタクシプラズム』二部作のある側面もこれはこれで極めて重要なものであるだろう。音楽である。『テイク・ワン』はマイルス・デイヴィス、『テイク・ツー』はロン・カーターというジャズ界の巨匠がつけた音楽がサウンドトラックに使用されている。マイルスの楽曲が劇中に使用されたというのでなく、マイルスが映像を見て音楽をつけたという意味で、映画音楽を担当したと言えるのは『死刑台のエレベーター』以来であり、従って『テイク・ワン』はマイルスの映画音楽第二作目に当たるのだが、その由来についても筆者は知識がなく、ましてその音楽的特性については到底書く資格がなく、『テイク・ツー』のロン・カーターも含め、改めてそれにふさわしい人(その筆頭は上島春彦さんだろうが)に書いてもらわねばならない。ともあれ今回は、ひょんなことから見ることになった映画について書いてみた、ということで稿を終える。

Symbiopsychotaxiplasm: Take one, Take two 1/2は、アメリカのCriterionから二枚組でDVDが出ている。監督のウィリアム・グリーヴスの仕事に関するドキュメンタリーと、スティーヴ・ブシェミのインタビューが特典映像。