映画の中のジャズ、ジャズの中の映画 Text by 上島春彦
第60回 宿題やり残しだらけの年頭コラムです…本年もよろしく
絶賛上映中「事件記者」シリーズ!
今回はやたらと宿題の後片づけみたいなプログラムになっている。
前回では和田誠の初めてのテレビアニメ番組に彼自身の発案で「モダン・ジャズ三人の会」が起用された件を取り上げたが、その三人のうちの一人、三保敬太郎が音楽を担当した映画『事件記者』シリーズ全篇を現在ラピュタ阿佐ヶ谷が絶賛上映中。そうなるとこれも話題にしないわけにはいかないかと。このレイトショー自体は3月9日まで続くものの、2月22日以降の二本『新・事件記者 大都会の罠』と『新・事件記者 殺意の丘』(共に監督:井上和男、66)は音楽担当者も三保ではなくなる。製作会社も東京映画に替わる。ネットをチェックするとこの二本は当時評価が低かったとされているが、私は数年前に見て面白かった。ミステリー風味はこちらの方が強いかも。これは意図的なコンセプト・チェンジに違いない。ネットに情報を載せている者が現物にあたっていないこともままあるし評価をうのみにはできない、この際ついでに見てほしい。この東京映画版二本は長編作品で、手間ひまもかかっているし。ではあるが本コラムの性格上、そっちにはふれない。三保が音楽を担当した初期SP作品にしぼって記述する。
 この『事件記者』は本来NHKのテレビドラマでとても評判を呼んだ。詳細はウィキペディアを読めば載っているのでここでは省略する。長期間にわたって放映されているが、残念ながら全く記憶にない。私が生まれた年に始まったドラマだからね。視聴率好調にも拘わらず突然NHKが番組終了を決めたため民放が続行に名乗りをあげ、キャストと一部スタッフは各々好条件を求めて二分し、結局NET(現在のテレビ朝日)とフジテレビでそれぞれ同趣向の番組が出来たとのこと。これも私は見ていない。この時代は、というよりつい最近まで、ビデオテープというのは高額だったためどこのテレビ局にも初期の番組は残されていない。テープを使いまわしてしまうわけだ。この『事件記者』NHK版もちゃんと完全な形で保存されたのは「芸術祭参加」の一回分一時間のみと記録にある。
そうなると音楽はどうだったのか気になるが番組冒頭クレジット部分動画だけはネットに上がっていた。また「なつかしの昭和テレビ・ラジオ番組主題歌全集」(日本コロムビア)というCDにも主題曲が収録されている。こちらNHK版は音楽三保敬太郎ではなく小倉朗。ドイツ古典主義に傾倒した作曲家であり、当然ジャズではない。切迫的でシンプルな旋律の弦楽によるリフレインがとても効果的で、ブラームスというよりこれをワンオクターブ上で鳴らすとバーナード・ハーマンになっちゃうかも、という気もする。名曲です。ラピュタ阿佐ヶ谷でもちゃんと幕間にかかっていた。劇場ではこれに続いて「事件記者小唄」とか「おけさ事件記者」でもいうべきコンセプトの歌謡曲も流れ、こっちもバカにおかしい。これはどこでどのように使用されたか分からない。まあ番組の中で使われたとは思えない。作曲も小倉じゃないだろう。結局番組自体をきちんと見ない限り、音楽がどうつけられていたかは分からない道理である。NHKの場合、小倉朗が主題曲を作曲したにしても番組の中での使われ方に関与したはずがないし、主題曲以外に伴奏音楽を書いたかも不明。この件は永遠に謎だ。そもそも生放送(後年は番組後半だけ生放送)だから、映画とは異なる方法論になろうかと。音楽をドラマ中では使わなかったかもしれない。
そして今回見られた日活版。映画の企画全般に関して大まかにおさらいしておく。まずスタッフ陣容から。企画 岩井金男。原作 島田一男。脚本 西島大。山口純一郎。若林一郎。三人共作扱いクレジットではあるが、作品により異同も多少ある。撮影 松橋梅夫。あるいは萩原憲治。美術 大鶴泰弘。編集 鈴木晄。録音 八木多木之助。監督 山崎徳次郎。そして音楽 三保敬太郎。こう眺めると中心スタッフはほぼ同一で固められたようだ。
タイトルの「事件記者」とは、ここでは警視庁の一角に場所を借りて本社編集局に記事を送る新聞記者たちの総称。「東京日報」他いくつかの大新聞の記者たちが集う「桜田記者クラブ」が舞台で場所が場所だけに記事というのは当然凶悪犯罪がらみである。この番組のおかげで名称が一般的になったものだが厳密にはこういうシステムは存在しないそうだ。そうなると当然「事件記者」という言葉もフィクションと考えて良い。一応設定上は新聞社ごとに区画割りされそれぞれにキャップがいて、事件をかぎつければ記者を取材に動かす。記者同士は仲もいいし、キャップ同士も協力関係を保っているが、各新聞社はライバルだから互いの取材源の秘匿とかに様々な駆け引きが展開され、同じ事件でも扱いが変わる。抜きつ抜かれつ各紙スクープ目指してまっしぐら、というのが作品のコンセプトである。
主人公の一人は「東京日報」キャップの永井智雄。レギュラー陣として、この新聞社の記者に扮する滝田裕介、園井啓介、原保美などがいる。テレビ版とこのへんは一緒。ただしキャストには違いもあり、それらをいちいち述べることはしない。一番の違いは日活映画版のもう一人の主役が新人記者の沢本忠雄ということで、彼は実はテレビ版にも東京映画版にも出てこない。沢本さんと言えば私の世代だとハイニッカのCMキャラクターか『細うで繁盛記』のボンボンなのだが、これが出世作だったのか。いわゆる「大部屋」出身らしい。トニー・カーチスみたいなもんだ。