2010年9月12日に惜しくもこの世を去った映画監督クロード・シャブロル。彼はジャン=リュック・ゴダール、フランソワ・トリュフォー、エリック・ロメール、ジャック・リヴェットと共にフランスのヌーヴェル・ヴァーグを代表する作家として活躍し54本もの長篇作品を遺しました。ブルジョワ階級の退廃的で屈折したモラルやエキセントリックな犯罪、クールでセクシーな女優たちを描く時、芸術家としての真価を最大限に発揮した彼は、ミステリーやサスペンスの巨匠とも呼ばれ映画史に大きな地位を占めています。不幸なことにクロード・シャブロルの作品は日本未公開のものが数多く存在し、その為作家の全体像が長い間理解されずにきました。今回お届けするシャブロル晩年期の未公開作3本は、彼のフィルモグラフィーの欠落をおぎない、フランス人が作るサスペンス・スリラーの面白さを私たちに教えてくれます。
アメリカの作家シャーロット・アームストロングの「見えない蜘蛛の巣」を基に作られた本作は、 心の深奥にひそむ善と悪の葛藤をクールに描いた犯罪心理ドラマの傑作。 平和なブルジョワ家庭が薄皮を剥がすように崩壊していく物語を淡々と描写しながら、 クライマックスでは見るものを慄然とさせるサスペンスの技巧は正にシャブロルの独断場。 リストのピアノ曲「葬送」を始めとしたクラシック音楽の隠喩的使用と ヒロイン役ユペールの完璧な演技は圧巻の一語!

1970年代後半以降、シャブロル作品のミューズとなったイザベル・ユペール 「8人の女たち」「ピアニスト」と演技派ミシェル・セロー「とまどい」 「クリクリのいた夏」の2人が詐欺師を演じる本作は、監督お得意のクールな 心理サスペンスがなりをひそめ軽妙さとブラック・ユーモアを前面に出した異色の犯罪スリラー。 マフィアの金に手を付けた詐欺師コンビの運命はいかに?雪山のスイス、南国のアンティル諸島等、 多彩なロケ撮影と巧みなストーリーテリングで最後まで目が離せない快作。

第2次大戦末期ドイツ占領下での悪夢の記憶を脈々と受け継ぐブルジョア一族。 一見優雅で平安に満ちた家族に1枚の中傷ビラが波紋を投げかける。 物語の進行につれて徐々に暴かれる韓流ドラマ以上に複雑で謎めいた血縁関係や ブルジョア階級の退廃的なモラルを悪意に満ちた眼差しで映しとる演出は監督のお家芸。 階段場面のドラマチックさはヒッチコック通のシャブロルならでは。 ギリシャ悲劇的な格調の高さをもった超一流のサスペンスに胸躍る。

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