最初は定番になった
日本映画専門チャンネルと
衛星劇場の共同企画から。「日本映画の巨匠たち」と題して、黒澤明、小津安二郎、溝口健二、成瀬巳喜男、木下惠介といった巨匠の作品を放映する。
日本映画専門チャンネルでは、『天国と地獄』(63、黒澤明)、『赤ひげ』(65、黒澤明)、『宗方姉妹』(50、小津安二郎)、『浮草』(59、小津安二郎)、『小早川家の秋』(61、小津安二郎)、『西鶴一代女』(52、溝口健二)、『楊貴妃』(55、溝口健二)、『稲妻』(52、成瀬巳喜男)、『あにいもうと』(53、成瀬巳喜男)、『なつかしや笛や太鼓』(67、木下惠介)、『スリランカの愛と別れ』(75、木下惠介)の11本。
衛星劇場では、『カルメン故郷に帰る』(51、木下惠介)、『秋日和』(60、小津安二郎)、『白痴』(51、黒澤明)、『浪華悲歌』(36、溝口健二)の4本。すでにDVDが発売されている作品ばかりだが、逆にいえばDVDマスターを使ったデジタル・ニュープリント版がほとんどなので、画質はかなり期待できる。どれも日本映画を代表する巨匠の名作ばかりなので、入門篇としても是非。
日本映画専門チャンネルでは、「初笑い・東宝サラリーマン喜劇!」と題して、『ニッポン無責任時代』(62、古澤憲吾)、『ニッポン無責任野郎』(62、古澤憲吾)、『日本一のゴマすり男』(65、古澤憲吾)、『社長繁盛記』(68、松林宗恵)、『続社長繁盛記』(68、松林宗恵)の5本を放映。こちらも定番といえる作品ばかり。前3作は植木等主演。図らずしも「無責任」という名を流行させた青島幸男を追悼放映ともなった。何度観ても、植木等の野放図ともいえるアナーキーなパワーが圧倒的で、古澤憲吾の得意技である〈いきなりミュージカル〉演出にも唖然とするばかり。
続いて、勝新太郎主演の「兵隊やくざ」全9作もまとめて放映。勝新太郎と田村高廣のコンビネーションが絶妙で、特にシリーズ第1作『兵隊やくざ』(65、増村保造)のおもしろさが傑出している。最後の『新兵隊やくざ・火線』(72、増村保造)のみ勝プロ=東宝提携作品。シリーズのほとんどを監督した田中徳三の巧さにも注目したい。
先月に引き続き、「市川崑の映画たち」では、『天晴れ一番手柄・青春銭形平次』(53)、『雪之丞変化』(63)、『股旅』(73)、『四十七人の刺客』(94)、『帰って来た木枯し紋次郎』(93)、『新選組』(00)、『竹取物語』(87)、『つる―鶴―』(88)の8本。市川崑の節操のなさが見事に出たラインナップで、80年代以降の諸作は、公私にわたるよきパートナーであった和田夏十を失い、貧困な企画にダボハゼのように食らいついて迷走するさまがよく分かる。やっぱリメイクしてほしくなかったなあ、『犬神家の一族』も。それに比べれば、『青春銭形平次』のモダンなおもしろさや『雪之丞変化』のハッタリの利いた様式的な演出のいかに見事なことか。
続いて
チャンネルNECOのラインナップから。「ザ・シリーズ」では、先月に引き続き高橋英樹主演の『男の紋章』シリーズ全10作の後半5本を放映する。作品は順に、『男の紋章・喧嘩状』(64、井田深)、『男の紋章・喧嘩街道』(65、滝澤英輔)、『男の紋章・流転の掟』(65、滝澤英輔)、『男の紋章・俺は斬る』(65、井田深)、『男の紋章・竜虎無情』(66、松尾昭典)。シリーズも煮詰まってきて、マンネリの感がしないわけではないが、安心して観ていられる気安さはある。清順映画だけが英樹じゃないって。
10人の監督によるオムニバス映画『ユメ十夜』公開記念で「夏目漱石と映画」といった特集もある。『吾輩は猫である』(36、山本嘉次郎)、『夏目漱石の三四郎』(55、中川信夫)、『こころ』(55、市川崑)、『それから』(85、森田芳光)の4本。夏目漱石は映画化に向いているようで、実は案外難しく、映画化された作品も思ったほど数はない。成功した例も少ないのではないか。もっとも映画化向きの「坊ちゃん」は5回映画化されており、漱石の作品の映画化では最多。しかしこれもあまり感心した作品はない。となれば、今回のラインナップは妥当なセンか。
「ようこそ新東宝の世界へ」では、『思い出月夜』(56、近江俊郎)、『阿修羅三剣士』(56、中川信夫)、『海女の化物屋敷』(59、曲谷守平)の3本。兄貴・大蔵貢のコネで何本か監督作のある近江俊郎はそのツマラナさから逆に貴重ともいえる放映だが、中川信夫の『阿修羅三剣士』はかなりレア作品なので要チェック。中川信夫といえば怪談映画の名匠というレッテルがついて回るが、本来は時代劇の監督なのである。その意味でも是非。『海女の化物屋敷』は、今も連綿と続くホラー映画の定番であるファンハウスものの快作。こけ脅かしのショッカー描写など定番なれどなかなかおもしろく観られる。若々しい菅原文太にも注目したい。
「名画座 the NIPPON」では、『ボロ家の春秋』(58、中村登)、『どんと行こうぜ』(59、野村芳太郎)、『国定忠治』(60、谷口千吉)、『女の一生』(62、増村保造)、『蝶々・雄二の夫婦善哉』(65、マキノ雅弘)の5本。『どんと行こうぜ』は大島渚脚本。未映画化作品を含めて、大島渚は監督昇進前に野村芳太郎のために何本か脚本を書いている。大島と野村の関係については興味深いものがあるが、『どんと行こうぜ』を観る限り、やっつけ仕事の感を否めない。大島の脚本のせいか、野村の演出のせいか。う~む。『蝶々・雄二の夫婦善哉』は、豊田四郎の名作『夫婦善哉』が織田作之助の小説の映画化であるのに対して、こちらはミヤコ蝶々と南都雄二が司会を務めた長寿テレビ番組から材を得た作品。今も放送されているトーク番組「新婚さんいらっしゃい」の元祖ともいうべき番組である。これをマキノがどう料理しているか、未見なので楽しみである。
衛星劇場では、「松竹第三の巨匠・渋谷実 生誕100年記念特集PART1」がある。確かに渋谷実といえば、小津安二郎、木下惠介に次ぐ松竹第三の巨匠。なのに現在ではほとんど忘れられた感がある。1907年1月2日生まれだから、1月でちょうど生誕100年を迎える。それに関してイベントが行われるという話もないようだから、せめて今回の放映で渋谷実の生誕100年を祝福したい。作品は、『てんやわんや』(50)、『もず』(61)、『現代人』(52)、『自由学校』(51)、『本日休診』(52)という、渋谷の代表作ばかり5本。「悲劇だか喜劇だか分からない」と評されることの多い渋谷作品だが、今回放映される作品は代表作に恥じない統一のとれた傑作である。無論、渋谷ファンとしては、ヌエ的な分裂加減がよいという意見もあり、失敗作ほど魅力的だという逆説も成立するが、たとえば『てんやわんや』や『現代人』のおけるドライな風刺描写は、現代的なサタイヤを先取りした傑作であることは間違いない。今からPART2が楽しみである。
「ニッポン無声映画特捜隊 第10回」は、『晴雲』(33、野村芳亭)と『生さぬ仲』(32、成瀬巳喜男)の2本。前者の原作者は久米正雄、後者は柳川春葉の原作を野田高梧が大きく改作した作品。いずれも新派調のメロドラマである。この時代、新派メロドラマ路線が松竹のドル箱路線であったことが分かる2作品である。とくに『晴雲』は現存する作品の少ない野村芳亭の貴重の現存作品のひとつ。133分あるオリジナルから題名とクレジット部分を含め30分以上欠けているが、栗島すみ子と大日方伝の披露宴場面の華やかさなど見所は満載でじゅうぶん楽しめる作品になっている。
「メモリー・オブ・若尾文子 Part19」では、『春雪の門』(53、佐伯幸三)、『雪の喪章』(67、三隅研次)、『嵐の講道館』(58、枝川弘)の3本。『春雪の門』と『嵐の講道館』は、菅原謙二お得意の柔道もの。『雪の喪章』は三隅研次が大映東京撮影所に赴いて監督した、金箔商のもとに嫁いできた女性の一代記もの。撮影を担当した小林節雄の話によると、金箔商が火事になる場面では、市川崑の『炎上』で宮川一夫が炎に金粉を混ぜて寺の炎上場面を撮影したことを真似して、本当に金粉を炎に投げ込んで撮影したという。その効果があるや否や、炎の前で金箔がちらちら舞っているだけで鼻白んだ記憶がある。名匠・三隅といえども東京撮影所で撮った作品はどれもこれも今イチなのは、同じ会社であっても撮影所が異なり、スタッフが違うと力量を発揮できないという見本のようなもので、撮影所システムを考えるのに興味深いことである。
「銀幕の美女シリーズ」は南田洋子特集。日活に移籍する以前、南田洋子は大映東京撮影所の筆頭若手女優だったのである。今回放映される作品は、『お嬢さん先生』(55、島耕二)、『現代処女』(53、佐伯幸三)、『春の渦巻』(54、枝川弘)の3本。いずれも未見なので楽しみである。ちなみに『お嬢さん先生』は獅子文六原作。渋谷実とは相性のよかった作家だけに、さて島耕二はどう料理をしているか。
「リクエスト・アワー」からは、『クレージーの花嫁と七人の仲間』(62、番匠義彰)、『トイレット部長』(61、筧正典)、『トンチンカン三つの歌』(52、斉藤寅次郎)、『ロッパの新婚旅行』(40、山本嘉次郎)、『佐々木小次郎 総集篇』(50、稲垣浩)、『赤線基地』(53、谷口千吉)、『覗かれた足』(51、阿部豊)、『良人の貞操 総集篇』(37、山本嘉次郎)の8本。『トイレット部長』は、松木ひろし原作のサラリーマンもの。国鉄の営繕課に勤める池部良が主人公である。トイレの歴史をコント風に見せるプロローグは、ビリー・ワイルダーの『七年目の浮気』のプロローグ風でオシャレ。トイレの和式便器にどちら向きにしゃがむかを真剣に議論する場面なんかなかなかおもしろい作品に仕上がっている。ほか『クレージーの花嫁と七人の仲間』、『トンチンカン三つの歌』、『ロッパの新婚旅行』、『赤線基地』など、今回もレアな作品を集めたラインナップ。とくに『覗かれた足』は足フェチであったフランソワ・トリュフォーにも是非観てもらいたかった作品。もちろん足フェチである私も万難を排して観るつもりでいる。
東映チャンネルからは、『日本侠客伝』全11本を放映。すでにDVD-BOXがリリースされていることもあって、DVDのニューマスターによる大盤振る舞いの放映である。シリーズものといえば、回を重ねるごとにダレてくるのが普通だが、東映の任侠映画シリーズはワンパターンを逆に様式美にまで高め、『日本侠客伝』、『昭和残侠伝』、『緋牡丹博徒』、『博奕打ち』など、回を重ねてもダレない秀作シリーズが多い。『日本侠客伝』シリーズはその見本のようなものである。ほとんどをマキノ雅弘が監督したことも大きいのかもしれないが、どこを切ってもマキノ節の話法の冴えと粋を堪能できるものばかり。DVDを購入する余裕のなかった方は是非!