12月は、
日本映画専門チャンネルと
衛星劇場の共同企画として、「スタア銀幕歌合戦~映画で蘇る昭和ヒット歌謡曲」特集が放映される。ちょうど
東京国立近代美術館フィルムセンターでも1月から「日本映画史横断② 歌謡・ミュージカル映画名作選」という特集上映が行われるので、この機会にまとめて歌でつづる日本映画史を堪能したい。
日本映画専門チャンネルでは、『東京ラプソディ』(36、伏水修)、『銀座カンカン娘』(49、島耕二)、『有楽町で逢いましょう』(58、島耕二)、『さよならはダンスの後で』(65、八木美津雄)、『お嫁においで』(66、本多猪四郎)、『恋のメキシカン・ロック 恋と夢と冒険と』(67、桜井秀雄)、『ハロー!フィンガー5』(74、福原進)、『ピンク・レディーの活動大写真』(78、小谷承靖)の8本を放送する。
『東京ラプソディ』はいうまでもなく古賀政男が作曲し、藤山一郎が唄って、35万枚もレコードを売ったヒット曲を題材にして、藤山一郎が主演した歌謡映画の古典。ヒット曲誕生秘話にラブロマンスを絡ませて、藤山とその恋人が銀座を歩き出し主題歌を唄いだすと、劇中の登場人物や街を歩く人々もその唄をリレーして、街中が「東京ラプソディ」を唄い、最高潮を迎える。このクライマックスの高揚感。これぞ音楽映画の正しき道という感じである。
もう1本興味深い作品は、『ピンク・レディーの活動大写真』。映画のプロデューサーと脚本家が売れっ子のピンク・レディーを主役にした映画の構想を練っている。こんなのどう?と脚本家が提案すると、それがエピソードとしてオムニバスのように描かれていく。最後に「じゃ、映画の題名はどうする?」。「そりゃ、『ピンク・レディーの活動大写真』さ」。というわけでドンとクレジット。あれ? どこかで観たお話と構成だな。その通り。『アンリエットの巴里祭』(52、ジュリアン・ジュヴィヴィエ)、またはそのリメイク『パリで一緒に』(63、リチャード・クワイン)そのまんまなのである。なのに、映画のクレジットには「原案・脚本:ジェームズ三木」とあって、愕然とした覚えがある。こういうのをパクリっていうでしょうか。まあ、劇中に挿入されるエピソードは西部劇ありSFあり(UFOが登場すると、ピンク・レディーのヒット曲「UFO」が流れ、MTVみたいになるのはお約束)で、テレビのバラエティみたいでそれなりに楽しめるけど。
『さよならはダンスの後で』は死ぬほど退屈した映画。八木美津雄といえば、松竹ヌーヴェル・ヴァーグ全盛期の1960年に監督昇進しているのに、どちらかといえば『あの波の果てまで』3部作(61)のようなメロドラマを大ヒットさせ、岩下志麻を松竹の看板女優に仕立てたお人。つまり会社への貢献度はヌーヴェル・ヴァーグよりよっぽど大きいのだが、今観るとことごとく凡庸で退屈な作品ばかり。『さよならはダンスの後で』も同様。倍賞千恵子が唄った同名のヒット曲だけがせめてもの救いだった。
一方、
衛星劇場のラインナップは、『そよかぜ』(45、佐々木康)、『ギターを持った渡り鳥』(59、斎藤武市)、『見上げてごらん夜の星を』(63、番匠義彰)、『虹をわたって』(72、前田陽一)の4本。『そよかぜ』は並木路子の唄う主題歌「リンゴの唄」が大ヒットし、戦後歌謡史の出発点になったことはあまり有名である。『虹をわたって』は、白雪姫こと天地真理が主演したアイドル歌謡映画。かつて大井武蔵野館があった頃、この映画が上映されると必ず前田陽一が来館して、「この時期、天地真理ちゃんはトルコ嬢疑惑があって、精神的に落ち込んでいた時期だった」と話していた。そういえば、そんなスキャンダルもあったっけ。飛ぶ鳥も落とす勢いのアイドルとトルコ嬢改めソープ嬢疑惑。少年はオヤジの週刊誌を盗み読んで、ぶるぶると体を震わせたものである。近所の友だちなんか「真理ちゃん号」なる自転車に乗っていたしなあ(これはのちにピンク・レディーが同様に「自転車」をはじめとするマーチャン・ダイジングを、もっと派手に、もっと完成された形で、展開することになる)。しかし、この頃の天地真理は可愛いなあ。一体誰があんなオバハンになると想像できたのか。映画も前田陽一らしく風刺が効いた快作で、個人的には大好きな1本である。
日本映画専門チャンネルの定番枠「市川崑の映画たち」からは、『恋人』(51)、『盗まれた恋』(51)、『結婚行進曲』(51)、『足にさわった女』(52)、『愛人』(53)、『女性に関する十二章』(54)、『青春怪談』(55)、オムニバス『女経』(60)、『黒い十人の女』(61)の8本と、再放送ぶんの『ラッキーさん』(52)、『プーサン』(53)、『億万長者』(54)、『満員電車』(57)の4本を含む、計12本。市川崑は、新作『犬神家の一族』(2006)の撮影現場で、76年版『犬神家の一族』をモニターで確認しながら演出していたと聞くと、「あんたはガス・ヴァン・サントか!」と突っ込みを入れたくなるが、その新作は決して悪い出来ではなかったものの、どうしても居心地の悪さを感じずにはいられなかった。それに比べれば、今回放送される作品群は、どれも脂の乗った頃の快作ばかりで、モダンな感覚を堪能できる。あまり言及されることがない『結婚行進曲』での、あまりの早口に舌を噛む出演者続出したといわれる、猛烈なスピードのセリフ合戦を見ていると、日本映画にもスクリューボール・コメディはあったんだ、と痛感する。若い頃はいろいろ挑戦していたんですなあ。
「市川雷蔵 現代劇全仕事」からは、『歌行燈』(60、衣笠貞之助)、『薔薇いくたびか』(55、衣笠)、『婦系図』(62、三隅研次)、遺作『博徒一代・血祭り不動』(69、安田公義)、『スタジオはてんやわんや』(57、浜野信彦)、『仲よし音頭・日本一だよ』(62、井上芳夫)というラインナップ。この中の『スタジオはてんやわんや』は、大映を紹介したPRバラエティ映画『スタジオは大騒ぎ』(56、水野洽)の姉妹編。大映のスタジオを紹介しながら、映画撮影の裏側を見せて、最後は紅白に分かれて歌合戦という趣向。雷蔵はその締め括りに勝新太郎とともに新スターとして紹介される。おそらくこの2本のPRバラエティ映画に刺激されたのだろう。新東宝でも同趣向のPRバラエティ映画『爆笑王座征服』(58、大蔵貢&毛利正樹)が製作される。大映の2本に比べて、延々しょぼい隠し芸大会を見せられているようで辛かったけど。
チャンネルNECOの「ザ・シリーズ」では、高橋英樹主演の『男の紋章』シリーズが登場。全10作中、今回放送されるのは前半の5作品。順に、『男の紋章』(63、松尾昭典)、『続・男の紋章』(63、松尾)、『男の紋章 風雲双ツ竜』(63、松尾)、『新男の紋章 度胸一番』(64、滝澤英輔)、『男の紋章 花と長脇差』(64、滝澤)。任侠映画というと、松竹の『乾いた花』(63/64、篠田正浩)をプロトタイプとして、東映の『人生劇場・飛車角』(63、沢島忠)を経て、『博徒』(64、小沢茂弘)から東映任侠映画がはじまるとされている。しかし一方で、日活でも早い時期から任侠映画を製作していたのであり、『男の紋章』シリーズはその先駆的シリーズである。これによって、ピストルよりドスという着流しスタイルを確立した高橋英樹も格好いいが、轟夕起子の恰幅のいい貫禄にも注目してほしい。
「ようこそ新東宝の世界へ」では、『嵐に立つ王女』(59、土居通芳)、『皇室と戦争とわが民族』(60、小森白)、『朱桜判官』(58、加戸野五郎)が登場する。『嵐に立つ王女』は、高倉みゆき主演の無国籍ドラマ。以前、本欄で指摘しておいたように、高倉みゆきの演じた役は、皇后、某国王女から女囚まで多岐に渡り、なかなか興味深いものがある。『嵐に立つ王女』ではモンゴリアン王女という役で、高倉の特異なキャリアを象徴する作品のひとつである。モンゴリアンという国はもちろん実在しないが、どうも満洲をモデルにしているように思われる。そうなると、ますます高倉みゆきが山口淑子(李香蘭~シャーリー山口)のグロテスクなパロディのように思えてならない。新東宝といえば三原葉子らグラマー女優ばかりスポットがあたりがちだが、高倉みゆきに関する大蔵貢の伝説的発言「女優を妾にしたのではない。妾を女優にしたのだ」という言葉とともに、グラマー女優をも含めた新東宝の女優について考える機会を持ちたい。
「名画座 the NIPPON」では、『裸の大将』(58、堀川弘通)、『獣の剣』(56、五社英雄)、『白子屋駒子』(60、三隅研次)、『カレーライス』(62、渡辺祐介)、『脂のしたたり』(66、田中徳三)というラインナップ。特に『カレーライス』と『脂のしたたり』は激レア作品。前者は、勤める出版社が潰れて失業した江原真二郎と大空真弓が、カレーライス屋をオープンする脱サラ映画。いざなぎ景気を超える景気を実感できず、商売でも始めようかという人には是非観てもらいたい。原作は阿川弘之。後者は、黒岩重吾原作の企業犯罪もので、大映現代劇としては「黒」シリーズの延長に位置する作品。田宮二郎の都会的なセンスが光る。
続いて、
衛星劇場。「ニッポン無声映画探検隊 第9回」では、『愛よ人類と共にあれ』(31、島津保次郎)と『腰弁頑張れ』(31、成瀬巳喜男)。『愛よ人類と共にあれ』は、ハリウッドで活躍した上山草人の帰朝記念映画で、松竹蒲田撮影所が全社的体制で製作した大作。原作・脚本に村山徳三郎の名前がクレジットされているが、実は松竹蒲田の脚本部全員が関与したといわれている。蒲田調の確立者で、庶民の暮らしをそのまま描くことに定評のある島津としては、不釣合いともいえる通俗的メロドラマ大作だが、当時、島津は牛原虚彦が抜けたあとの松竹の筆頭監督だったから、この人選は当然。持ち味は自然体なのに、意外や技巧を凝らした演出ぶりを見ることができる。一方、『腰弁頑張れ』は、松竹が得意とした小市民喜劇に連なる作品で、現存する成瀬の最も古い作品。こういう喜劇も撮れるんだあという意外感とともに、幾何学模様のワイプなど後年の成瀬からは想像もできない技巧の数々を見ることもできるが、すでに交通事故など成瀬的主題が盛り込まれていることにも注目したい。
「メモリー・オブ・若尾文子 Part18」では、『銀座っ子』(61、井上梅次)、『幻の馬』(55、島耕二)、『鉄砲伝来紀』(68、森一生)の3本。『銀座っ子』は、井上&笠原良三脚本による明朗青春もの。『幻の馬』は永田雅一が所有していた名馬・トキノミノルについての映画。まだ日本映画では一部でしか使わなかったカラー(イーストマン・カラー)で撮影され、カンヌ映画祭にも出品された。観ておいて損はない。『鉄砲伝来紀』は、のちの岩波ホール支配人である高野悦子の原案に基づき、長谷川公之が脚色し、森一生が監督した異色作。実はこれ、映画化の際、盗作問題で訴訟沙汰にも発展した曰く付きの映画。自分に無断で原案を盗用された高野が訴え、一審で高野の勝訴。で、現在のように「原案」とクレジットされるようになったというわけ。映画の方は異人との悲恋を描いた凡庸なメロドラマの域を出ない。
「銀幕の美女シリーズ」は月丘夢路特集。『何処へ 真実の愛情を求めて』(54、大庭秀雄)、『花のおもかげ』(50、家城巳代治)、『若奥様一番勝負』(52、瑞穂春海)の3本。月丘夢路の松竹時代の作品はなかなか観る機会がないので、是非。
「リクエスト・アワー」からは、『サラリーマン目白三平・亭主のためいきの巻』(60、鈴木英夫)、『ラヂオの女王』(35、矢倉茂雄)、『久遠の笑顔』(42、渡辺邦男)、『女といふ城 夕子の巻』(53、阿部豊)、『戦国無頼』(52、稲垣浩)、『白い肌と黄色い隊長』(60、堀内真直)、『飛ぶ夢はしばらく見ない』(90、須川栄三)が登場する。『亭主のためいきの巻』は、東映と東宝で製作された「目白三平」シリーズのうち、2本製作されたSP(シスタア・ピクチュア)の1本である。『女といふ城 夕子の巻』は、11月に放送された『女といふ城 マリの巻』(53、阿部豊)の続編。『戦国無頼』は、三國連太郎が松竹に無断で出演したために問題になり、五社協定を制定する呼び水となった作品。しかし、稲垣浩の東宝時代劇はおもしろくないなあ。『白い肌と黄色い隊長』は未見ながら、今月期待の1本。内容を衛星劇場のサイトからコピペしておこう。「第17回文春読者賞受賞作品の映画化。太平洋戦争たけなわの南太平洋セレベス島に展開する、敵国女性収容所の物語。灼熱の太陽の下、閉ざされたセックスと欲望にうめく1,800人の白人女性。あらゆる誘惑や暴力から彼女たちを守り抜こうとした一人の日本人青年所長が終戦までの3年数ヶ月、そして戦争終結の国際裁判を舞台に極めてドラマティックな運命を描き出している」。堀内真直に傑作を期待する気はさらさらないが、「灼熱の太陽の下、閉ざされたセックスと欲望にうめく1,800人の白人女性」という記述に(;´Д`) ハァハァして、期待してしまう私なのです。
最後に、
東映チャンネルから。『大奥』(2007年公開予定)公開記念で、『女帝春日局』(90、中島貞夫)、『大奥絵巻』(68、山下耕作)、『大奥(秘)物語』(67、中島貞夫)、『続・大奥(秘)物語』(67、中島)を一挙放送する。もともと大奥ものは、艶っぽいというかエロというか、そういう要素をふんだんに入れた時代劇という括りで製作された時代劇のジャンルである。
参考までに、徳川家光の乳母として権勢を振るった春日局と並んで、映画によく取り上げられる徳川家斉について書いておく。 大奥は、2代将軍徳川秀忠の正室・お江与が創立した。名前の由来は、大名・旗本などの邸宅で当主を中心とした家政や応対をする場所を〈面〉、当主の妻を中心にした子女たちの生活する場を〈奥〉と称したことから、つけられた。3代徳川家光の時代には、家光の乳母で権勢を振るった春日局が、1618年、大奥法度を定める。大奥法度では、大奥へは将軍以外の男子は入ることができず、また大奥は表の政治に介入することは禁じられた。徳川幕府第11代将軍の家斉は、1773年、一橋治済(はるさだ)の長男として生まれ、1781年、徳川第10代将軍・家治の養子に迎えられた。幼名・豊千代。1781年、徳川第11代将軍に就く。その治世は、文化・文政時代(1804~1830)から天保時代初年にかけた約50年に及び、徳川歴代将軍の中で最も長い。1837年には、将軍職を次男・家慶に譲り、大御所になるが、幕政の実権は握った。しかし家斉の大奥中心の華美・驕奢な生活は大御所地代には拍車が掛かり、そのため幕政は腐敗した。家斉の側妾は40人とも言われ、このうち16名(御台所=将軍夫人の子を含めると17名)に55人の子供を生ませた。1841年、69歳で没。(参考文献「平凡社 世界大百科事典」)
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大奥
春日局
徳川家斉
そのほかに『間諜』(64、沢島忠)が要チェック。007が流行しているのに目をつけて、それを時代劇でやったという異色作。沢島忠によると、会社側からの要請は俳優座の役者をまとめて起用せよとのことだったが、東映の若手、新国劇から緒形拳、新劇から映画に転じていた内田良平らを起用。007を意識しただけあって、さまざまな間諜グッズが登場する。激レア作品なので万難を排して鑑賞したい。