11月のCS・BSピックアップ
今年は三島由紀夫生誕81周年にあたる。昨年は、生誕80周年を記念して、行定勲監督によって『春の雪』が映画化された。三島の小説をもとに作られた映画は、三島自身が監督した『憂国』(66)を含めて、全部で30本ある。WOWOW日本映画専門チャンネルでは、三島由紀夫特集が放映される。

WOWOWの「名作日本映画館」では、『お嬢さん』(61、弓削太郎)、『獣の戯れ』(64、富本壮吉)、『永すぎた春』(57、田中重吉)、それに三島主演の『からっ風野郎』(60、増村保造)の4本。日本映画専門チャンネルの「原作 三島由紀夫の世界」では、『春の雪』(05)、『幸福号出帆』(80、斎藤耕一)、『金閣寺』(76、高林陽一)、『潮騒』(75、西河克己)、『潮騒』(71、森谷司郎)、『潮騒』(54、谷口千吉)、『音楽』(72、増村保造)、『愛の渇き』(67、蔵原惟繕)、『複雑な彼』(66、島耕二)、『肉体の学校』(65、木下亮)、『剣』(64、三隅研次)、『燈台』(59、鈴木英夫)、『不道徳教育講座』(59、西河克己)、『炎上』(58、市川崑)、『美徳のよろめき』(57、中平康)、『にっぽん製』(53、島耕二)の16本に、三島の魅力に迫ったドキュメンタリー『みやび 三島由紀夫』(05、田中千世子)を加えたラインナップ。

三島自身は、特に『炎上』がお気に入りだったようだが、この中で及第点をつけられるのは、『炎上』のほか、『潮騒』(54)、『剣』ぐらいで、保留付きでもせいぜい『愛の渇き』、『肉体の学校』ぐらいしかないと思う。それだけ三島の唯美的観念の世界を映画化するのは難しいということの証明でもあるのだが、映画化された3本の『潮騒』が全作観られるチャンスは滅多にないし、『不道徳教育講座』、『にっぽん製』、『肉体の学校』などレアな作品も混ざっているので、是非チェックしたい。

日本映画専門チャンネルでは、先月に引き続き「監督 市川崑の映画たち」と題して、市川崑特集もある。作品は、『ラッキーさん』(52)、『プーサン』(53)、『億万長者』(54)、『満員電車』(57)、『炎上』(58)、『ぼんち』(60)、『破戒』(62)の7本、それに再放送ぶんの『犬神家の一族』(76)、『女王蜂』(78)、『病院坂の首縊りの家』(79)、『八つ墓村』(96)という「金田一耕助もの」を加えた全11本。

市川崑という監督は、スタイルだけのテクニシャンのモダニストだという批判もあるし、確かにそう思うのだが、だから悪いというのではなく、少なくとも大映時代までの作品は積極的に好きな作品が多い。ブラック・ユーモアに溢れた『プーサン』、『億万長者』、『満員電車』の痛烈な風刺は現在でも有効だと思うし、スクリューボール・コメディを思わせる異常なスピードが快い。また、『炎上』と『ぼんち』は間違いなく市川崑の大映時代を代表する作品なので、未見の方は是非。後者は大映女優陣豪華競演で、艶っぽい場面もたっぷり(はあと)。

「市川雷蔵 現代劇全仕事」では、『炎上』、『剣』、『破戒』、『ぼんち』、『殺陣師段平』(62、瑞穂春海)、それに再放送の『陸軍中野学校』全5作(66~68)と『ある殺し屋』全2作(67)。『殺陣師段平』は3度映画化されているが、黒澤明による脚本は、すでに50年に東横映画でマキノ雅弘が映画化しており、これが2度目の映画化になる。マキノはこのあとの55年、今度は自らの脚本を日活で『人生とんぼ返り』として再々映画化する。3作とも悪くはないが、おそらく本作が最も予算をかけた映画化ではないだろうか。新国劇がリアルな立ち回りを生み出していく秘話の部分よりも、市川雷蔵演じる沢田正二郎と中村鴈治郎演じる段平の師弟愛に注目したい。

チャンネルNECOの「ザ・シリーズ」では、日活ニュー・アクションの到来を告げた、渡哲也の『無頼』シリーズ全6作が登場する。製作順に、『無頼より・大幹部』(68、舛田利雄)、『大幹部・無頼』(68、小澤啓一)、『無頼非情』(68、江崎実生)、『無頼 人斬り五郎』(68、小澤)、『無頼 黒匕首(ドス)』(68、小澤)、『無頼 殺(ばら)せ』(69、小澤)。『大幹部・無頼』のクライマックスで渡哲也がドブ河の中でヤクザと斬り合いを繰り広げる場面と、近くの高校で女学生がバレーボールをする場面をカットバックした名場面も忘れがたいが、『無頼 人斬り五郎』のクライマックスも忘れがたい。塩田で死闘を繰り広げ、倒れ込んだ渡哲也のかたわらに投げ捨てられたサングラスに、去ったはずの松原智恵子が戻ってくる姿が映る。その格好よさとしっとりとした情感! なによりも渡哲也という名前を聞いて、反射的に口ずさんでしまうのは、清順の『東京流れ者』ではなく、この『無頼』のテーマなのである! 日活ニュー・アクションを代表するもうひとつのシリーズ『野良猫ロック』もDVD化されたことだし、本格的な日活ニュー・アクションの検証が待たれるところである。

「名画 The NIPPON」では、『重役の椅子』(57、筧正典)、『男嫌い』(64、木下亮)が要注目。東宝お得意のサラリーマンものには、2つの流れがあって、ひとつは『社長』シリーズのような能天気なコメディであり、もうひとつは策謀渦巻く《黒い》スリラーである。もちろん前者が主流であるのだが、後者は松本清張の原作を得て、いわゆる《東宝フィルム・ノワール》としてまた独自の発展を遂げることになる。その両者の中間に、源氏鶏太原作による出世や乗っ取りを主題としたシリアスなサラリーマンものがあり、『重役の椅子』はそれに当たる。もっとも筧正典は鈴木英夫と違って、カフカ的なノワールの世界に踏み込まず、後味も悪くないサラリーマンものに仕上げている。一方、『男嫌い』は、テレビ作品は多いが、映画では寡作で知られる木下亮の作品。同名のテレビドラマを映画化した作品だが、原色を使った大胆な色使いやグラフィックな構図が楽しめる作品になっている。木下亮作品は、「三島由紀夫特集」でも『肉体の学校』が放映されるので、この機会に是非観直したい。

衛星劇場では、「永遠の美剣士 長谷川一夫傑作十選」と題して、長谷川一夫主演作を特集。お奨めは、股旅版「ローマの休日」である『かげろう笠』(59、三隅研次)、マキノ節が冴え渡る『家光と彦左』(41、マキノ正博)、親子の情愛が泣かせる『獅子の座』(53、伊藤大輔)、秀作『疵千両』(60、田中徳三)、もっと評価されてもいい『藤十郎の恋』(38、山本嘉次郎)といったところか。『疵千両』は田中徳三が映画監督協会新人賞を受賞した記念すべき作品。長谷川一夫の額から流れる黒々とした血糊の凄みが圧倒的である。このほか股旅ものでは、『関の弥太っぺ』(59、加戸敏)と『雪の渡り鳥』(57、加戸)も時間があれば是非。両作とも脚本は犬塚稔。何度も映画化され、のちに市川雷蔵主演でも映画化されるが(『関の弥太っぺ』は撮影途中で死去のため、本郷功次郎に交代し、『二匹の用心棒』となる)、品のよさが目立つ雷蔵よりはずっと重厚な股旅やくざぶりが堪能できる。

「ニッポン無声映画探検隊 第8回」は、『銀河』(31、清水宏)と『銀色夜叉』(34、佐々木恒次郎)。清水宏はしばしば子供を主人公にした童心溢れる監督だと思われがちだが、菊池寛などの新聞連載小説を基にした通俗メロドラマもたくさん撮っている。『銀河』は、加藤武雄が東京日日新聞に連載した小説を映画化したメロドラマで、3時間以上の大作。冒頭のスキー場の場面は、小津安二郎と成瀬巳喜男が応援監督をしたといわれるが、その場面から小津らしさ、成瀬らしさを読み取ることはできない。というか、登場人物が多く、話も込み入っていて、全体にストーリーと人物関係が分かりにくく、清水の才気はあまり感じられない。しかし、この作品が当時大ヒットして清水が松竹蒲田を代表する監督になった記念碑的作品でもあり、フィルムセンターでも滅多に上映されない作品なので、今回の放映は大変貴重であることには違いないので、録画の準備は怠りなく。『銀色夜叉』の原作は、清水の『大学の若旦那』シリーズでスターになった藤井貢。主演は「与太者」シリーズの阿部正三郎。44分の中篇なので、添え物として企画された作品なのだろう。これも珍しいので要チェック。

「メモリー・オブ・若尾文子 Part17」では、『月に飛ぶ雁』(55、松林宗恵)、『天狗党』(69、山本薩夫)、『薔薇の木にバラの花咲く』(59、枝川弘)の3本。このうち、観るべき作品は大映専属であった文子タンが東宝に貸し出されて出演した『月に飛ぶ雁』のみ。アルサロ(アルバイト・サロン)で働く文子タンもいいが、安西郷子がいいですねえ~。思えば、安西郷子って三橋達也と結婚して早く引退したせいか、あまり作品に恵まれていない気がする。代表作は『憎いもの』(57、丸山誠治)か。余談だけど、この『憎いもの』って最初は溝口健二が東宝で監督するはずだった企画なんだよねえ。

「銀幕の美女シリーズ」は水原真知子特集。これまた地味な女優特集! 水原真知子といえば、五所平之助作品の脇役といったイメージがあるが、一般的には松竹メロドラマの中堅女優といったイメージが強いのではないだろうか。たとえば今回放映される『こゝに幸あり』前後篇(56、番匠義彰)。映画がどんな凡作でも主題歌は今でも多くの人に愛唱されるのは皮肉な限り。ほかに『三人娘只今婚約中』(55、萩山輝男)と『緑なる人』前後篇(56、田畠恒男)。いずれも時間のある方だけどうぞ。

「リクエスト・アワー」からは、『サラリーマン目白三平・女房の顔の巻』(60、鈴木英夫)が登場する。10月に放映された『目白三平物語・うちの女房』(57、鈴木英夫)に引き続き、2本製作されたSP(シスタア・ピクチュア)の1本である。主演を佐野周二から再び笠智衆に交代し、鈴木英夫が手堅い演出でまとめる。ほかにお奨めとして、『次男坊故郷へ行く』(56、野村芳太郎)と『女といふ城 マリの巻』(53、阿部豊)を挙げておく。『次男坊故郷に帰る』は、野村が高橋貞二主演で監督した『次男坊』(53)の続編らしき印象を受けるがまったく無関係の作品。といっても同じような明朗青春映画であることには変わりない。野村芳太郎というと、つい松本清張ものを連想しがちだが、本来は無節操になんでも撮っていた職人監督で、コメディやミュージカルにも捨てがたい佳作がある。この『次男坊故郷に帰る』もそうした1本。『女といふ城 マリの巻』は、小島政二郎の新聞連載小説を映画化した高峰秀子主演の通俗メロドラマ。新東宝がメロドラマや文芸作品を続々と製作している頃の1本である。

最後に、東映チャンネルから。『故郷(ふるさと)は緑なりき』(61、村山新治)は富島健夫の小説を楠田芳子が脚色した青春映画。木下惠介の実妹である楠田は、寡作ではあるけれど脚本作品に佳作が多い。木下惠介より抒情性も押し付けがましくないところが好感の持てるところである。それ以上に、本作では、佐久間良子の美少女ぶりが絶品。衛星劇場が若尾文子全作品放映を目指しているのなら、東映チャンネルは佐久間良子の全作品放映を実現してほしいと思う次第である。『大暴れ五十三次』(63、マキノ雅弘)は、マキノ自身の『弥次喜多道中記』(38)のリメイクだと思われる。『江戸犯罪帳・黒い爪』(64、山下耕作)は、「江戸の無法地帯の見廻同心が、迷宮入り寸前の怪事件を追い苦心惨憺のすえ逮捕した犯人が全く意外なヒトだった、という推理ドラマを、リアルに熱っぽく描いたもの。従来の捕物帳にない現代的な捜査ドラマを展開」(東映チャンネル紹介より)という作品。どちらも未見なので楽しみである。ほかに再放送ながら、『朝霧街道』(61、加藤泰)の放送もある。高田浩吉の股旅ものであるが、松竹京都の「歌う時代劇」とは一味違った渋みがあって、加藤泰ファンだけではなく、是非この機会に観ていただきたい。

11月の東映チャンネルでは、月形龍之介主演の『水戸黄門漫遊記』の第7作『怪力類人猿』(56、伊賀山正光)と第9作『人喰い狒々』(56、伊賀山)の2作が放映される。副題を見ても分かるように、実はこのシリーズ、現在ならトンデモ映画に分類されてしまうもので、毎回着ぐるみ丸出しの怪人・怪物が登場し、水戸黄門一行と戦うという趣向。まとめて文芸坐かラピュタ阿佐ヶ谷あたりで上映すれば、爆笑と失笑の渦と化すことは請け合いの映画なのだ。月形の水戸黄門といえば、戦後の水戸黄門の代表だが、実はこんなトンデモの内容だったんですねえ。