石井輝男監督が亡くなって、早いもので8月12日で1年になる。
チャンネルNECOの「ようこそ「新東宝」の世界へ」では、その1周忌を記念して石井輝男監督の新東宝時代の作品が放映される。『鋼鉄の巨人』(57)、『天城心中・天国に結ぶ恋』(58)、『猛吹雪の死闘』(59)、『黄線地帯(イエロー・ライン)』(60)の4本。う~ん、正直なところ少々つらい作品もあるが、この中で唯一のカラー作品『黄線地帯』はライン・シリーズの1本として出色の出来。石井映画の美神・三原葉子のコケティッシュなグラマラスぶり(定番になったHなダンスもあるよ!)、殺し屋に扮した天知茂の色悪ぶりと歯の浮くようなキザな科白の数々を楽しみたい。
「ザ・シリーズ」の第19弾は、小林旭主演の『銀座旋風児』全6作(59~63、すべて野口博志)が登場する。旭扮する私立探偵(らしい)二階堂卓也(映画評論家ではありません、念のため)が活躍する荒唐無稽アクションのシリーズで、旭の出世作『南国土佐を後にして』(59、斎藤武市)のヒット直後に「渡り鳥」シリーズと平行して製作された。渡辺武信の名著「日活アクションの華麗な世界」(未来社、1981年)では「語り継ぐべきディテールの魅力が全く欠如している」とし、そのひとつとして「主人公の基本的なイメージさえ曖昧なので彼の性格なども全く不明のまま」であり、「日活アクションの美質の一つである“おしゃべり”の魅力を全く欠いていた」として手厳しい評価を下している。確かに6作も作られたわりに、最後まで主人公のキャラクターがはっきりしないし、シリーズものの魅力であるパターンとそこからはみ出るおもしろさにも欠けているきらいはあるが、旭のキレのいい動きはじゅうぶん堪能できるシリーズである。
「日活名画館」には、その旭の初期名作『女を忘れろ』(59、舛田利雄)が登場する。まるでヨーロッパ映画のようなロマンチズム漂うラストシーンを観るだけでも何度でも観たい作品である。平林たい子原作の『地底の歌』(56、野口博志)は、のちに『関東無宿』(63、鈴木清順)として再映画化された文芸任侠アクション映画。この2作は同じセリフも多いが、後半の展開はまるっきり違う。それと、前者では石原裕次郎、後者では小林旭主演だが、演じた役が異なるのに注目。野口博志と鈴木清順は師弟関係にあるので、それぞれ同じ原作からどのように映画化していているが比べてみるのもおもしろい。 そのほかに『さようならの季節』(62、滝沢英輔)、『流血の抗争』(71・長谷部安春)が放映される。とくに後者は日活ニュー・アクションを代表する傑作。後半の徒労感溢れる長い余白の描写は何度も見てもすばらしい。錠さんを真似てビーチサンダルでペタンペタンやったことのある人、わが同志です!
「名画 the NIPPON」では、『抱擁』(53、マキノ雅弘)、『夢のハワイで盆踊り』(64、鷹森立一)、『九ちゃんの大当りさかさま仁義』(63、渡辺祐介)、『コント55号と水前寺清子のワン・ツー・パンチ三百六十五歩のマーチ』(69、野村芳太郎)、『豹は走った』(70、西村潔)の5本。『抱擁』は三船敏郎と山口淑子のメロドラマである。マキノであっても、テンポがよくなく、正直なところ、あまりおもしろくない。山口淑子(=李香蘭)はヒット作には恵まれたもののついにはその存在を超える映画作品に恵まれなかったのではないのか。とくに「山口淑子」時代には、『暁の脱走』(50、谷口千吉)を唯一の例外として、見るべき作品がほとんどないのはどうしたわけなんだろう。
『豹は走った』は何度も取り上げているので省略するが、最近リリースされた『豹は走った』のCDのライナー・ノーツがあまりにひどく頭にきたので、ここでその一部をさらし上げにする。
「元来ハードボイドという題材自体が様式美の累計(原文ママ)で、そこには熱狂的な自己過信の世界観が封入されているのが極自然である。そんな主人公の映画的な身振りにこそ、官能なり羨望なりがある。『豹は走った』にも確かに装置としての小道具なり設定なりは見事なまでに揃っている。国際空港としての羽田空港、不意の渋滞、殺しを依頼する女。しかし、肝心の何か動機を持った、世界観を持った主人公は不在である。説話的には加賀まり子はどちらかの男と絡んでいくだろうし、それは不可避なはずであるが、何も起こらない。加賀まり子だけでなく、主役の加山雄三でさえ終始冴えないスーツを着込み、溜息を吐きながら覇気の無い身振りをただ繰り返しているだけである。まるで役者が自分を抽象化することを命じられているかのように徹底的にその存在感を消しているわけである」
どうですか、このひどい文章! まったくいつからこういう文章がはびこるようになったのやら。好きでもないなら書かなきゃいいのに。ライナー・ノーツにこういう借り物の文体で中身のまるでないことをさも中身があるように書かれると、大枚はたいてCDを購入した消費者としてはまったく不愉快である。書くのも悪いが頼むのも悪い。
横道に逸れたついでに確認しておきたいのだが、80年代以降、「シネフィル」という言葉が市民権を得てしまったようだが、それが意味するところは「熱狂的な映画ファン」ではない。「シネフィル」は、たとえば『流血の抗争』を見て、ビーチサンダルでペタンペタンと宍戸錠の真似をしないし、そもそも『流血の抗争』や長谷部安春などに興味はない。「シネフィル」とは新宿昭和館よりも日仏学院を好む連中のことなのだ。間違えないように。ちなみに「映画獣」という言葉もあるが、それは一時の「オタク」という言葉以上に侮蔑語なので、人前では使わないよ~うに。
さて、
日本映画専門チャンネルは、
衛星劇場との共同企画で、先月に引き続き「川島雄三」特集。日本映画専門チャンネルからは、『学生社長』(53)、『特急にっぽん』(61)、『雁の寺』(62)、『箱根山』(62)、『接吻泥棒』(60)、『夜の流れ』(60、成瀬巳喜男と共同)、『女は二度生まれる』(61)、『グラマ島の誘惑』(59)、『貸間あり』(59)の再放送を含む9本。衛星劇場からは、『とんかつ大将』(52)、『女優と名探偵』(50)、『人も歩けば』(60)、『適齢三人娘』(51)、『天使も夢見る』(51)、『夢を召しませ』(50)の6本。今回もまた玉石混交のラインナップ。レアではあるけれど、しょうもない作品が多い松竹時代の作品の中でも佳作の部類に入る『とんかつ大将』がリストに入っているので要チェック。個人的には『雁の寺』の屈折した《昏さ》がすごく好きなんだけども。
カワシマクラブ
監督 川島雄三傳
監督 川島雄三
7月から続く太平洋戦争関連では、まず日本映画専門チャンネルの「太平洋戦争と日本映画」。『あゝ特別攻撃隊』(60、井上芳夫)、『月光の夏』(93、神山征二郎)、『雷撃隊出動』(44、山本嘉次郎)、『あゝ零戦』(65、村山三男)、『戦艦大和』(53、阿部豊)、『連合艦隊』(81、丸山誠治)、それにドキュメンタリーや児童映画をどっかと放送。大人も子供も否応無く戦争を考えようということなのか。
東映チャンネルでは、「戦記映画スペシャル」と題して、『陸軍残虐物語』(63、佐藤純彌)、『いれずみ突撃隊』(64、石井輝男)、『ルバング島の奇跡・陸軍中野学校』(74、佐藤純彌)、『パレンバン奇襲作戦』(63、小林恒夫)、『殴り込み艦隊』(60、島津昇一)を放映。
日本映画専門チャンネルと東映チャンネルの放映作品を並べてみると、対照的である。日本映画専門チャンネルではいわゆる反戦映画を中心にして、『雷撃隊出動』をラインナップに加えることで、戦時中の国威掲揚国策映画を批判するという魂胆が透けて見えるのに対して、今年の東映チャンネルはとりあえず軍隊批判の『陸軍残虐物語』あり、小野田寛郎さん帰還に便乗した『ルバング島の奇跡・陸軍中野学校』あり、と儲かればなんでもアリの東映魂を体現したラインナップ。中にはヤクザ映画をそのまま戦争映画にスライドさせた『いれずみ突撃隊』もあるし、『殴り込み艦隊』はのちに日活が『零戦黒雲一家』(62、舛田利雄)として映画化した菅沼洋原作の最初の映画化。つまり同じ戦争映画でもなんでもアリ。この違いは、いうなれば、真面目な日本映画専門チャンネルと、タンカバイで何でも売るテキヤみたいな東映および東映チャンネルの違いといったところか。
戦争映画は、戦時中は東宝が国策映画(『雷撃隊出動』、『南海の花束』、『ハワイ・マレー沖海戦』)をリードし、戦後になると左翼映画人たちの受け皿となった東映が反戦映画(『きけ、わだつみの声』、『ひめゆりの塔』)を作って、会社の基盤を築き上げ、次いで新東宝が天皇を利用した戦争映画(『明治天皇と日露大戦争』、『大東亜戦争と国際裁判』)で傾きかけた会社を建て直し、「独立愚連隊」シリーズなどを製作していた東宝が8・15シリーズ(『日本のいちばん長い日』、『激動の昭和史・軍閥』、『激動の昭和史・沖縄決戦』)の製作を開始し、一挙に大作&特撮路線を歩んだあと、70年代以降は独立プロが反戦映画をちんまりと自主製作するという流れになる。それぞれに会社の特徴だけでなく、史観やその時代の気分までも現れていて興味深いものがあるが、どうせ夏になると戦争映画というのなら、ラインナップにはバラエティあるバランス感覚もほしいと付け加えておこう。
日本映画専門チャンネルに戻る。「私の好きな日本映画」はミュージシャンの高橋幸宏がゲスト。こういう番組は毎回選者の映画のセンスが問われ、図々しくよくもよくも――と思ってしまうゲストもいるのだけど、だいたい共通するのはゲストが多感だった頃に見た作品が選ばれる。高橋幸宏が選んだのは、『鯨神』(62、田中徳三)、『不信のとき』(68、今井正)、『その人は女教師』(70、出目昌伸)、『喜劇・各駅停車』(65、井上和男)。ふーむ、見事に年齢の分かるセレクションで、趣味がいいのだかどうか分からん。この中では田中徳三の異色作『鯨神』がお奨め。宇能鴻一郎の芥川賞受賞作(!)の映画化であり、和製「白鯨」である。田中徳三はリアルさを狙って画面を暗くしたもんだから、永田ラッパに「闇夜のカラスだっ!」と怒られたと語っているので、部屋で観るときも電気を消して鑑賞したいものである。墨を流したような真っ暗の闇夜での鯨と勝新の死闘は大迫力。
衛星劇場の「没後10年 渥美清特集」では、反戦映画『あゝ声なき友』(72、今井正)、交通事故で逝去した落語家・三遊亭歌笑の半生をつづった『おかしな奴』(63、沢島忠)、アフリカにロケした即興映画『ブワナ・トシの歌』(65、羽仁進)、主役をフランキー堺にバトンタッチして長寿シリーズとなる『喜劇・急行列車』(67、瀬川昌治)、野蛮な笑いが炸裂する『喜劇・男は愛嬌』(70、森崎東)、元祖車寅次郎『拝啓天皇陛下様』(63、野村芳太郎)、「拝啓」シリーズ第3弾『拝啓総理大臣様』(63、野村芳太郎)、木下惠介脚本による足ながおじさん物語『父子草』(65、丸山誠治)の8本。見事なバランス感覚である。渥美清=『男はつらいよ』というワンパターンの連想を見事に覆すバラエティあるラインナップはすばらしい。この中では『ブワナ・トシの歌』を久々に観直したい。人類学的視点とシネマ・ヴェリテ的手法の観点からジャン・ルーシュと羽仁進の比較論も待たれるところである。
同じく没後10年で先月に引き続き「小林正樹特集」。『まごころ』(53)、『三つの愛』(54)、『息子の青春』(52)の初期3本に再放送ぶんが加わる。あれ~、衛星劇場のHP、『息子の青春』の写真が違ってるなあ。この写真は『天使も夢を見る』じゃないでしょうか?
「ニッポン無声映画探検隊」では、『乳姉妹(ちきょうだい)』(32、野村芳亭)と『与太者と縁談』(32、野村浩将)。『乳姉妹』は昨年、イタリアのポルディノーネ無声映画祭で上映され大好評を得た作品。松竹蒲田撮影所所長でもある野村が得意とした新派調メロドラマの見本のような作品であり、現存する(本作はアメリカ西海岸でナイトレート・プリントが発見され、里帰りしたもの)野村芳亭作品の中でも最良作ではないだろうか。岡田嘉子と川崎弘子の対照的な姉妹が素晴らしく、のちに東京シネマの社長になった岡田桑三(芸名:山内光)が二枚目ぶりが堪能できる。フィルム・コンディションも良好。『与太者と縁談』は野村浩将による、三井弘次、磯野秋雄、阿部正三郎トリオ主演の与太者シリーズの1本。例によってたわいもない話だが、若水絹子は相変わらず美しい(はあと)。
「メモリー・オブ・若尾文子 Part14」では、集団就職で上京した若者たちを描く『一粒の麦』(58、吉村公三郎)、競馬をめぐる『恋の大障碍』(59、島耕二)、不倫メロドラマ『濡れた二人』(68、増村保造)の3本。作品的には『一粒の麦』がリードするが、レア度では『恋の大障碍』だろう。大映社長の永田雅一が大の馬好きで、サツキ賞、日本ダービーの2冠を制した名馬トキノミノルの馬主であったことはよく知られるところである。黒澤明の『羅生門』(50)がヴェネチアで金獅子賞を受賞すると、高額な値段でセリ落とした馬に「ラショウモン」と命名する。が、その馬は試合中に骨折。永田は「名前負けしたんや」と語った逸話が残っている。トキノミノルは破傷風で死んでしまうが、その物語は『幻の馬』(55、島耕二)となる。本作はその『幻の馬』に続き、同じ監督(島耕二)、脚本家(長谷川公之)、主演女優(若尾文子)で製作された、いわば姉妹編。『幻の馬』がそうであったように、イーストマン・カラーの美しさだけでもじゅうぶん観るに耐える、といったら失礼か。猟奇の血が騒ぐ罪深き人には『濡れた二人』がお奨め。ボディ・ダブルながら文子タンのヌードを見られるのも貴重。80年代に渋谷にあったラッキー・ホール(うふふ)を連想しつつ、顔の見えないヌードでいろいろと妄想をしよう。髪を顔に垂らして顔を隠した状態で全裸で立つ女体を脳内で文子タンに変換する愉しみもオツなモンである。それにしても北大路欣也っていつから暑苦しいマッチョに変貌したんでしょうか。
「銀幕の美女シリーズ」は桑野みゆきの特集。『ローマに咲いた恋』(63、川頭義郎)、『引越しやつれ』(61、堀内真直)、『海猫が飛んで』(62、酒井辰雄)、『抱いて頂戴』(61、岩城其美夫)の4本である。う~む、このシリーズもだんだん闇の葬られたプログラム・ピクチュアのサルベージ船と化してきた感があるが、悲しいことにすべて劇場のスクリーンで観ている私が断言するが、観ても人生にプラスにならないことだけは絶対。『海猫が飛んで』の「海猫」は「うみねこ」ではなく「かもめ」と読むのだが、そんなこと知っていてもキネ旬の「映画検定」には出題されません。死ぬほど退屈だったという記憶だけで見事に4本とも何も覚えていないが、今回は木下惠介が脚本を書いた『ローマに咲いた恋』だけを再見するつもり。人生の時間は限りある。映画ばかりが人生じゃないぞ! 若者よ、恋をしろ!(なんのこっちゃ)
そのほかでは、「日本名作劇場」からは、大庭秀雄の佳作『帰郷』(50)、中村登の傑作シリーズの1本『集金旅行』(57)、「リクエスト・アワー」からは、『釣鐘草』(40、石田民三)、『肌色の月』(57、杉江敏男)が放送される。石田民三という監督は、森本薫が脚本を書いた『花ちりぬ』(38)、『むかしの歌』(39)の2本があまりに傑作すぎて、そりゃ『花火の街』(37)や『夜の鳩』(37)も傑作だけれども、今ひとつよく全体像や作風が分からない監督である。エノケンの映画を撮ったり、三流と看做されていた浪曲映画も手がけたりと、守備範囲は広く、残っている作品の数が少ないためか作風の統一性を欠くように思われがちである。そんな中で『釣鐘草』がどんな位置にくるのかよく分からないが、吉屋信子原作でいうことで、前年監督した、同じく吉屋信子原作の『花つみ日記』(39)の延長上にある作品とひとまず言えよう。お話は吉屋信子原作だから星菫派ごときものに違いないのだが、映画に漂う雰囲気が実に上品ですばらしいのだ。これは是非!『肌色の月』は久生十蘭の原作もの。これはうまく映画化できたとはいえない出来で今ひとつ。
東映チャンネルでは、「クライム・サスペンス」特集として、水上勉原作『霧と影』(61、石井輝男)と松本清張原作『点と線』(58、小林恒夫)を放映。前者は必ずしもテンポに難があって最良作ではないが、まだほとんど無名だった丹波哲郎を主役に抜擢し、能登半島の風景をバックに殺人事件を推理していく過程をモノクロ画面に焼き付けていく。逆に後者は、時刻表のトリックを使った清張の出世作をドラマー出身の役者・南広を主役にして、当時では大作だけであったカラー&シネスコで描いた作品。助監督だった深作欣二の証言によると、「カラーだから標準レンズしか使えない。百ミリは勘弁してくれ、と。そうすると五十ミリか七十五ミリだけなんですよね。その弊害がカラーでシネマスコープの『点と線』の場合もつづいて、何が困ったかというと、時刻表のクローズアップとか名刺のアップとか出てくるわけで、一畳ぐらいの大きさの名刺を撮らないとクローズアップにならないんですよ(笑)。時刻表の一ページのクローズアップだと、十畳ぐらいのをつくって、レールを敷いて七十五ミリで撮る(笑)」(「映画監督 深作欣二」、ワイズ出版、2003年)だそうで、なんと十畳の大きさの時刻表! こうしたエピソードを気にしながら、改めて『点と線』を観るのもおもしろい。
まだまだあるところが今月の東映チャンネルのすごいところ。夏休みはどこもお子様ランチを用意して事足れりとしている中で、確かに子供向けコンテンツは数多く揃えている東映だけあって抜かりはないが、『怪談お岩の亡霊』(61、加藤泰)ほか怪談映画4本に、アンリ・ヴェリヌイユの『地下室のメロディ』(63)をパクった『御金蔵破り』(64、石井輝男)、『殿さま弥次喜多捕物道中』(59、沢島忠)、『夜霧の長脇差』(61、倉田準二)、『夜の手配師』(68、村山新治)、『不良街』(72、野田幸男)など百花繚乱の中、『荒野の渡世人』(68、佐藤純彌)と『高原牧場の決斗』(61、島津昇一)という2本のパッチもん西部劇が紛れ込んでいることに注目されたい。前者はオーストラリアにまでロケに行き、出演者は高倉健を除き全員オーストラリア人という大作である。後者は北海道を舞台にした鶴田浩二と梅宮辰夫の西部劇。よほどパッチもん西部劇を日活だけに独占させておきたくなかったのでしょうかねえ。こんな作品が「リクエスト・シアター」に出るとは、よほど観たい人がいたんですなあ。
さて、しんがりに東映チャンネルから『散歩する霊柩車』(64、佐藤肇)を紹介する。この作品はすでに東映チャンネルで放映されているから、今回の放映は再放送ということになるが、9月にシネマヴェーラ渋谷でも上映が予定されているのである。このシネマヴェーラ渋谷の企画には、及ばずながら私もちょっこだけ加わっているので、東京近郊の方はぜひスクリーンで観るべく足を運んでもらいたい。その上映作品の一部を紹介すると、『散歩する霊柩車』、『吸血鬼ゴケミドロ』(68、佐藤肇)、『怪猫トルコ風呂』(75、山口和彦)、『好色源平絵巻』(77、深尾道典)、『九十九本目の生娘』(59、曲谷守平)、『恐怖奇形人間』(69、石井輝男)、『怪談蚊喰鳥』(61、森一生)、『黒蜥蜴』(68、深作欣二)、『女獄門帖・引き裂かれた尼僧』(77、牧口雄二)、『犬神の悪霊』(77、伊藤俊也)、『くの一忍法』(64、中島貞夫)、『マタンゴ』(63、本多猪四郎)など、「一体、どういう企画なんだ!」と叫んでしまう作品ばかりをズラリ。
そもそもこの企画、私が永年、佐藤肇の『怪談せむし男』(65)が観たくって、そのあげくヤフオクでイタリア語吹き替えの海賊版ビデオをやっと入手したことからはじまる。それを脚本家の高橋洋に渡して観せると、高橋洋は私以上にハマってしまい、ちゃんとしたプリントで『怪談せむし男』が観たいと熱望したので、私が上映運動に巻き込んだのである。それからなんだかんだあって、結局、今回の特集では『怪談せむし男』は上映できないことになった。しかし、黒沢清の新作『LOFT』からの連想で、ヒッチコックと佐藤肇言及したい誘惑もあるが、また別の機会にしよう。共通項は《ミイラ》である。
ともあれ、詳細は
シネマヴェーラ渋谷のHPに近日中アップ。期待して待て!