アカデミー賞の影響なのか、3月のBSはアカデミー賞関連の作品が並び、毎年同じ作品ばかりで新味がない。テレビ局の改編前の時期という事情もあるのだろう。それにしても、ビデオショップにしろ、BSにしろ、アカデミー賞かカンヌ映画祭ばかりをピックアップしてあまりにも芸がない。今日、どこの映画祭もディレクターの独断と偏見で特徴づけられていることを勘案すれば、今後、多チャンネルのデジタル放送時代を生き残るためには、番組の編成にももっと個性的な独断が求められるのではないかと思う。
WOWOWの洋画では、ハワード・ヒューズの『地獄の天使』が放映される。132分というから、日本でリリースされているパブリック・ドメインのビデオ版より長く、おそらく近年、リストアされたバージョンの放映になるのではないだろうか。こういう貴重な情報を載せている映画雑誌もテレビ情報誌も日本では皆無である。もったいない。
CSでは、日本映画専門チャンネルと衛星劇場ともに、溝口健二作品の再放送。
日本映画専門チャンネル
衛星劇場
今年、没後50周年を迎える溝口は、やっとDVDが発売されるようだが、小津・成瀬・岡本喜八の作品がそうであったように、DVD発売前にCSやBSで全作品を放映し、それからセレクトした作品をDVDでリリースするという日本映画のメジャー会社の戦略は、商売として勝算があるのかかなり疑問に思う。それでなくとも、日本映画のDVDはたとえばワーナー・ホーム・ビデオのDVDに比べると値段も高く、特典も解説書もついていないものが多い。早い話が、日本映画を見ようというファンは、高額なDVDなど買わずにCSに加入すればそれで済んでしまうのだ。
――と書くと、少なからずDVDの仕事をしている人間としては天に唾を吐く行為になってしまってじれったいのだが、特典映像にしろ、もともとそういうものを撮影したり、残しておく習慣のない日本映画界にあって、新たにDVDの特典映像を作ろうとしても、市場が限られているため、予算が出ないというのが実情なのである。機材費・人件費込みで、10万円の予算で完パケ納品をしろというのがどだい無理なのだ。
鶏と卵の関係じゃないが、市場が限られているからそうなるのか、ハナっから努力を放棄しているから市場が限られるのか。CSとDVDとの関係もまた同じようなものだと考えてしまう。
さらに日本映画のDVDについては、内外価格差の問題もある。アメリカでリリースされている日本映画のほうが、画質が鮮明だったり、特典がついていたりする上、価格も海外からの送料を加算しても格段に安いという事実には、釈然としないものを感じる。日本人が日本映画を気軽に見られない状況はどこか歪んでいるような気がする。市場原理だけでは片付けられない問題である。
懐具合のさびしい日本映画ファンは、DVDを購入するよりCSやBSをマメにチェックしておいたほうがよさそうだ。
チャンネルNECOでは鈴木清順の大正浪漫3部作を含む、レア作品を放映。『弘高青春物語』と『春桜 ジャパネスク』はテレビ初。清順を売るために、タランティーノやジャームッシュの名前を持ち出さねばならない不幸からは自由になろう。
そのほか、衛星劇場では川島雄三『ニコニコ大会』『花吹く風』が登場。
カワシマクラブが見られない作品を自己負担で1本ずつせっせとネガから16ミリプリントを焼いて自主上映していた頃が夢のような話である。
東映チャンネルでは、マキノ雅弘の『阿波おどり・鳴門の海賊』が放映される。これはマキノ自身の名作『阿波の踊子』のリメイク。かなりレアな作品なのでこちらもぜひ。
今年は牧野省三が日本で初めて監督が作ったとされる映画『本能寺合戦』を製作してからちょうど100年目にあたる。そしてその子・松田定次の生誕100年でもある。さらに2008年はマキノ雅弘(雅広)の生誕100年と続く。日本映画史に巨大な足跡を残したマキノ一族を称える記念イベントに期待したい。