日活ロマンポルノ




ジェネオン エンタテインメント(株)から、2~3ヶ月に一度のペースで日活ロマンポルノの名作が続々とリリースされている。

毎回、15本ずつというハイペースでリリースされる作品には、初パッケージ化される作品も多く、「最後のプログラム・ピクチュア」であった日活ロマンポルノの全体像を俯瞰できるラインナップとなっている。

その前にざっと日活ロマンポルノについて、説明を加えておこう。 日活ロマンポルノとは、1971年から1988年までに日活(1978年に社名変更し、にっかつ)で製作された成人映画を指す呼称である。よくピンク映画と混同されがちだが、ピンク映画が1962年から独立プロが製作を開始した成人映画を呼称する通称であるのに対して、ロマンポルノはれっきとした日活のブランド名である。 日活ロマンポルノは、1971年11月封切りの『団地妻・昼下りの情事』(西村昭五郎監督)と『色暦大奥秘話』(林功監督)を皮切りにして、1988年5月封切りの『ベッド・パートナー』(後藤大輔監督)と『ラブ・ゲームは終わらない』(金沢克次監督)まで、のべ18年間で約1,000本余りの作品が製作された。

日活ロマンポルノのDVDは、これまで日活やアップリンクから何本かリリースされていたが、今回ジェネオンから発売される作品は、150本という膨大な数で、いわゆる名作や人気作品ばかりでないところが貴重だと思う。

すでに発売になっているものも含めて、ラインナップを紹介する(*は初パッケージ化作品)。


■ 2006年3月時点で既発売分



『花と蛇 究極縄調教』(87年、浅野政行監督)
『花と蛇 飼育編』(86年、西村昭五郎監督)
『花と蛇 地獄編』(85年、西村昭五郎監督)
『花と蛇 白衣縄奴隷』(86年、西村昭五郎監督)
『色情海女 乱れ壷』(76年、遠藤三郎監督)*
『潮吹き海女』(79年、白鳥信一監督)*
『くいこみ海女 乱れ貝』(82年、藤浦敦監督)*
『宇能鴻一郎の濡れて打つ』(84年、金子修介監督)
『ピンクカット 太く愛して深く愛して』(83年、森田芳光監督)
『美少女プロレス 失神10秒前』(84年、那須博之監督)
『濡れた週末』(79年、根岸吉太郎監督)*
『タイムアバンチュール 絶頂5秒前』(86年、滝田洋二郎監督)
『OL官能日記 あァ!私の中で』(77年、小沼勝監督)
『オフィスラブ 真昼の禁猟区』(85年、上垣保朗監督)
『OL日記 牝猫の情事』(72年、加藤彰監督)
『鍵』(74年、神代辰巳監督)
『江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者』(76年、田中登監督)
『暗室』(83年、浦山桐郎監督)
『桃尻娘 ピンク・ヒップ・ガール』(78年、小原宏裕監督)
『愛のぬくもり』(72年、近藤幸彦監督)*
『恋狂い』(71年、加藤彰監督)*
『愛に濡れたわたし』(73年、加藤彰監督)*
『(秘)女郎責め地獄』(73年、田中登監督)
『実録阿部定』(75年、田中登監督)
『昭和おんなみち 裸性門』(73年、曽根中生監督)*
『(秘)極楽紅弁天』(73年、曽根中生監督)*
『バックが大好き!』(81年、小原宏裕監督)
『性と愛のコリーダ』(77年、小沼勝監督)
『悶絶!!どんでん返し』(77年、神代辰巳監督)
『桃色身体検査』(85年、滝田洋二郎監督)
『高校エロトピア 赤い制服』(79年、白鳥信一監督)*
『いんこう』(86年、小沼勝監督)
『ピンクのカーテン』(82年、上垣保朗監督)
『恋人たちは濡れた』(73年、神代辰巳監督)
『やくざ観音 情女(いろ)仁義』(73年、神代辰巳監督)
『少女娼婦 けものみち』(80年、神代辰巳監督)*
『ズームアップ 暴行白書』(81年、藤井克彦監督)
『襲う!』(78年、長谷部安春監督)*
『ズームイン 暴行団地』(80年、黒沢直輔監督)*
『さすらいの恋人 眩暈(めまい)』(78年、小沼勝監督)*
『濡れた荒野を走れ』(73年、沢田幸弘監督)*
『生贄夫人』(74年、小沼勝監督)
『団鬼六 縄炎夫人』(80年、藤井克彦監督)
『団鬼六 蛇の穴』(83年、藤井克彦監督)
『黒薔薇昇天』(75年、神代辰巳監督)


監督別に見ていくと、神代辰巳については、すでにロマンポルノという枠にとどまらず、名匠という評価が定着しており、代表作のほとんどは他社からすでにDVDやビデオソフトが発売になっているが、今回は小沼勝、曽根中生、田中登という日活ロマンポルノ初期から活躍してきた名監督の、あまり見られる機会のなかった作品が多く含まれていることを歓迎したい。

上記のほかに、今後発売が予定されている小沼、曽根、田中作品は、以下のとおり(発売予定順)。


■ 小沼勝作品



『女囚・檻』(83年)
『ブルートレイン大阪』(83年)*
『色情旅行 香港慕情』(73年)*
『白い娼婦 花芯のたかまり』(74年)*
『花芯の刺青 熟れた壷』(76年)
★小沼の最高傑作として、もっと評価されるべき作品。
『縄と乳房』(83年)*
★川口松太郎の「鶴八鶴次郎」を翻案した傑作。 「鶴八鶴次郎」は、米映画『ボレロ』の翻案である。 成瀬巳喜男の同名映画はその映画化。 本作の底本に「鶴八鶴次郎」を持ち込んだ脚本の小寺朝は東宝のプロデューサーである山田順彦、 宇治栄三は桂千穂の、それぞれペンネーム。
『団鬼六 少女縛り絵図』(80年)
『団鬼六「黒い鬼火」より 貴婦人縛り壷』(77年)
『濡れた壷』(76年)
『修道女ルナの告白』(76年)


■ 曽根中生作品



『女校生 (秘)モーテル白書』(75年)*
★共同脚本の杉田二郎は、当時日活の契約助監督だった相米慎二のペンネーム。
『教師 女鹿』(78年)*
『色情姉妹』(72年)
『実録白川和子 裸の履歴書』(73年)*
『性盗ねずみ小僧』(72年)*
★共同脚本は長谷川和彦。
『不良少女 野良猫の性春』(73年)*
『熟れすぎた乳房 人妻』(73年)*
『(秘)女郎市場』(72年)
『わたしのSEX白書 絶頂度』(76年)
★脚本は日本映画を代表するスクリプターの白鳥あかね。
『性談 牡丹灯籠』(72年)
『新宿乱れ街 いくまで待って!』(77年)*
★脚本家荒井晴彦のデビュー作。
『白昼の女狩り』(未公開)*


■ 田中登作品



『官能教室 愛のテクニック』(72年)
『夜汽車の女』(72年)
『牝猫たちの夜』(72年)*
『ハードスキャンダル 性の放浪者』(80年)*
『発禁本「美女乱舞」より 責める!』(77年)
『ピンクサロン 好色五人女』(78年)
『蕾の眺め』(86年)


神代辰巳に比べて、まだまだこの3監督は正当な評価がなされているとはいえない。とりわけ、多作の曽根中生は、封切り以来、ほとんど見ることができなかった、初期の型破りな戯作趣味が横溢した時代劇が含まれていることを歓迎したい。初期から中期にかけての、長谷川和彦、相米慎二、大和屋竺、白鳥あかね、荒井晴彦ら、個性的な脚本家とのコラボレーションがどのように作品に反映しているか。初期の狂騒的なパロディ時代劇から後年の粘着的な演出のメロドラマに至る作品歴の変遷過程が、今回のDVD発売を通して見えやすくなるのではないかと思う。『白昼の女狩り』(未公開)というのは、情報が少なくてよく分からないが、陽の目を見ていない作品ならなおさら要チェック。 同時に、今回のDVD発売は、作家主義で映画を鑑賞するのではなく、日活ロマンポルノというプログラム・ピクチュアを読み直す機会にもなるだろう。ロマンポルノはジャンルではない。その中に、時代劇、コメディ、メロドラマ、ホームドラマ、ミステリ、SFといったジャンルを内包したブランドの総体なのである。 小沼勝の『縄と乳房』が川口松太郎の「鶴八鶴次郎」の成瀬経由の踏襲であることはすでに述べたが、長谷部安春の『暴行切り裂きジャック』がジョセフ・H・ルイスの『拳銃魔』、澤田幸弘の『暴行!』がジョン・ヒューストンの『キーラーゴ』の、それぞれイタダキであることから、1本のオリジナル映画がどのような変遷をたどり、どのように翻案されていくかを見ることもできる。過去の名作を巧みに換骨奪胎して、ブランドにふさわしいプログラム・ピクチュアに仕立て上げるしたたかな職人精神には敬服するばかりだ。 もちろん、ロマンポルノのミューズであった女優の魅力も忘れてはならない。宮下順子や芹明香抜きでは神代辰巳は語れないのは当然のことなのだから。

以下、そのほかの監督作品から発売が予定されている作品のラインナップから、初パッケージ化の注目作品をピックアップする。

『ズーム・アップ ビニール本の女』(81年、菅野隆監督)*
『主婦の体験レポート おんなの四畳半』(75年、武田一成監督)*
『愛欲の罠』(73年、大和屋竺監督)*
★長らくフィルムの所在が分からなかった幻の作品。シネフィルたちが最も発見を待ち望んだロマンポルノ作品だろう。

日活ロマンポルノについては、以下のHPが参考になる。

日活ロマンポルノ館    映画のロマンadult編

ジェネオンのDVD発売と連動して、書籍「愛の寓話」(内田達夫編、東京学参)が発売された。スタッフやキャストへの貴重なインタビューを含み、日活ロマンポルノの主要作品やDVDリリース作品の紹介をしている。本書は全5巻になるシリーズの第1弾だそうで、今後順次DVDの発売にあわせて続刊される。

このほかの書籍では、「官能のプログラム・ピクチュア」(フィルムアート社、1983年)が読み物としておもしろく、かつデータとしても役に立つが、惜しむらくは取り上げている作品が1982年で終わっていることである。この際、ぜひとも増補版を編集すべきであろう。 もうひとつ、日活ロマンポルノ裁判については、「日活ポルノ裁判」「権力はワイセツを嫉妬する」(共に斎藤正治著、風媒社、1975/1978年)が役に立つが、現在では入手しにくい。こちらもぜひ復刻してほしい。