かつてエリック・ロメールが学生向けの映画講義において選んだ映画史上の12本がある。
1『ファウスト』(1926。F・W・ムルナウ)
2『ドクトル・マブゼ』(原題『賭博師マブゼ博士』。1922。フリッツ・ラング)
3『タルチュフ』(1925。F・W・ムルナウ)
4『怪人マブゼ博士』(原題『マブゼ博士の千の眼』。1960。監督フリッツ・ラング)
5『見知らぬ乗客』(1951。アルフレッド・ヒッチコック)
6『大いなる神秘/第二部:情炎の砂漠』(原題『インドの墓』。1959。フリッツ・ラング)
7『暗黒街の顔役』(1932。ハワード・ホークス)
8『果てしなき蒼空』(1952。ハワード・ホークス)
9『三つ数えろ』(1946。ハワード・ホークス)
10『情事』(1960。ミケランジェロ・アントニオーニ)
11『女ともだち』(1955。ミケランジェロ・アントニオーニ)
12『若い娘』(未。1960。ルイス・ブニュエル)
このリストは今でもそのまま初学者向けの映画の授業で使えそうだが、このうちブニュエルの隠れた傑作『若い娘』のみ日本未公開である。同作は、ロリコン、人種差別、人間狩りと、特に時代背景を考慮すると、きわめて挑発的な題材を扱っている。主演は50年代B級活劇スターのザカリー・スコット。『若い娘』の原作は無名時代のピーター・マシーセンの『Travelin Man』である。今日ではナチュラリストとして知られるマシーセンの著書には『雪豹』(めるくまーる社)など何冊かの邦訳がある。
マシーセンによる回想
『若い娘』についての論文ビル・クローン、ポール・ダンカン著『ルイス・ブニュエル』(タッシェン。2005。英語版あり)も参照(写真集)
『若い娘』のDVDは今のところ、スペインのマンガ・フィルムスから単体で出ているほか、去年フランスのステュディオ・カナルから出たルイス・ブニュエル・コレクションDVDの一つに収録された(同時収録ディスクは『小間使の日記』と『欲望のあいまいな対象』)。
『若い娘』は来年以後、カナル盤原版に基づく日本盤発売の予定もあるらしいが目下未定。
ブニュエルがトーキー・システム「フィルムフォノ」の開発者リカルド・ウルゴイティの映画製作会社フィルムフォノで製作・脚本を手がけた、ジャン・グレミヨン監督、フェルナド・レマーチャ・ビヤール(1898−1984)作曲のミュージカル・コメディ『番兵、注意せよ!』(未。1937)は、同じくグレミヨン監督初のスペイン映画『哀しみの処女』 (未。1934)と共に、スペインのディビサ・レッドからDVDが出ている。スペイン語音声、字幕はなし。『番兵、注意せよ!』はグレミヨンが歯痛で撮影を休んだ際、ブニュエルがクレジットなしで数場面を撮ったという。この後、スペイン内戦が勃発、ブニュエルはフランコ派の勝利に伴い、米国を経てメキシコに亡命する。
スペイン、
ディビサ・レッド
一方、米VCIからは公開50周年記念盤DVD『ロビンソン漂流記』(1954)が出ている。この映画にはスペイン語版と英語版の2ヴァージョンがあるが、このDVDは英語版。
オスカーにノミネートされた主演のダニエル・オハリヒー(『ロボコップ』のオムニ社社長役)の1985年の談話付き(ただし話の内容はこの映画が中心ではない)。なおオハリヒーは2005年2月17日、85歳で亡くなった。
『ロビンソン漂流記』VCI盤DVDレヴュー
dvdbeaver.com/
hollywoodbitchslap.com
メキシコ亡命中のバトラー夫妻とブニュエルは、友人の女優ジャネット・ノーラン(男優ジョン・マッキンタイア夫人)の映画デビュー作で、彼女がマクベス夫人を演じた、オーソン・ウェルズ監督の『マクベス』(1948)を観て、マクダフ役のオハリヒーをクルーソー役に抜擢した。
『マクベス』は仏ワイルド・サイドから2ヴァージョン(107分/85分)収録のDVD(3枚組)が出ている。ディスク3は各種資料映像を収録。80頁のリーフレット付き。『マクベス』は英セカンド・サイトからもDVDが出ている。本編収録時間は103分。特典はアイルランドの有名な舞台俳優ヒルトン・エドワーズ(1903−82)の唯一の脚本・監督作の短編『グレナスコールへの帰還 Return to Gllenascaul』(未。1951)のみ。
幽霊物語『グレナスコールへの帰還』はセカンド・サイト盤『オーソン・ウェルズのオセロ』(1952)DVDにも特典として収録されている。アカデミー短編映画賞にノミネートされたが、40年以上も観ることができなかったという。ウェルズも一部演出に関わった。
『オセロ』でブラバンショー(デズデモーナの父)を演じたエドワーズと、同じくイアーゴー役のミーハウル・マクリアムール(1899−1978)は同性愛関係にあり、1928年に有名なダブリン・ゲイト劇場を創設した。
『グレナスコールへの帰還』もゲイト劇場の製作。『オセロ』でキャシオーを演じたマイケル・ロレンスが主演。ウェルズは本人役で出演している。『オセロ』の撮影中断のあいだに、ウェルズ(本人)がアイルランドの田舎道で夜、見知らぬ男を車に乗せる。男は以前、二人の女を車に乗せ、遠くの家まで送ったと語る。だがその二人の女は幽霊だった。
16歳の神童ウェルズがエドワーズと契約し、ゲイト劇場の舞台に立ったのは1931年10月。演目は『ユダヤ人ジュス』だった。1933年3月に神童ウェルズは米国に帰国し、1934年10月、25歳のジェイムズ・メイソンが『ジュリアス・シーザー』のブルータス役に抜擢された。エドワーズがシーザー役、マクリアムールがアントニー役だった。
マクリアムールは、フィールディングの悪漢小説『トム・ジョーンズ』(1749年)に基づく、ジョン・オズボーン脚本、トニー・リチャードソン監督の『トム・ジョーンズの華麗な冒険』(1963)ではナレーターを務め、ジョン・ヒューストン監督、ウェルズも出演している『クレムリンレター/密書』(1970)、カーティス・ハリントン監督の『ヘレンに何が起こったのか?』(放映題。1971)などに出演している。
『マクベス』仏ワイルド・サイド盤DVDレヴュー(仏語)
オーソン・ウェルズに関するきわめて充実した有益なウェブ・リソース「ウェルズネット」
ブニュエル初のカラー映画『ロビンソン漂流記』はヒット作にもかかわらず、1982年のメキシコ国立シネテカの火災により、オリジナル素材が焼失。ブニュエルにとって初の米=メキシコ合作映画でもある『ロビンソン漂流記』と同じく米=メキシコ合作『若い娘』の二本の英語作品は、ブニュエル作品の中で最も過小評価されてきた作品だろう。
ピーター・ウィリアム・エヴァンズ、イサベル・サンタオラジャ編『ルイス・ブニュエル:ニュー・リーディングス』(BFI、2004)にはマーヴィン・ドゥルーゴによる『ロビンソン漂流記』論とサンタオラジャによる『若い娘』論が掲載されている。
星野智幸「二人のルイス」
そしてこの2作にブニュエルと共に関わったのが、赤狩りの犠牲者ジョージ・ペパー(変名ジョージ・P・ワーカー)とヒューゴー・バトラー(変名フィリップ・アンセル・ロールおよびH・B・アディス)である。『ロビンソン漂流記』の際、彼らはオルメカ・プロという会社を設立。オルメカはメキシコ湾岸で紀元前1250年頃から紀元前後まで栄えた古代文化の名匠である。『グラン・カジノ』(1947)、『忘れられた人々』(1950)、『乱暴者』(1953)、『エル』(1953)などの製作者でブニュエルの友人だったオスカル・ダンシヘルスの製作会社ウルトラマール社とテペヤク社が共同製作。テペヤクとは1531年12月9日に、土着のインディオに「グアダルーペの聖母」が出現し、語りかけたとされる丘の名称。
オスカル・ダンシヘルスは、ジャック・ターナー(トゥルヌール)のフランス時代の代表作とされる『管理人の娘たち』(未。1934)の製作者でもある。同作の原作・台詞は『牝犬』(映画祭題。1931)のジョルジュ・ド・ラ・フォシャルディエール。脚本は1928年に第一期「ルヴュ・デュ・シネマ」を創刊したジャン=ジョルジュ・オリオール(1907−50)。『美女と野獣』(1946)の「美女」役ジョゼット・デイが三姉妹の一人の役で出演している。その他、ダンシヘルスの製作した映画にはエミリオ・フェルナンデス監督、ガブリエル・フィゲロア撮影の『真珠』(1948)、ルイ・マル監督、アンリ・ドカ撮影、ジョルジュ・ドルリュー音楽の『ビバ・マリア!』(1965)、オーソン・ウェルズの未完の監督作をジェス・フランコが完成させた『オーソン・ウェルズのドン・キホーテ』(未。1992)がある。
ペパー(1913−69)はヴァイオリニストだったが指の関節炎のため演奏を断念、音楽家組合を組織し、1944年にハリウッド民主委員会の委員長に就任、HICCAP(芸術・科学・職業のためのハリウッド独立市民委員会)の執行委員長でもあった。赤狩りでメキシコに逃亡し、ドルトン・トランボやバトラー夫妻ら亡命ブラックリスト脚本家と交流しつつ、タレント・エージェントやプロデューサーとして活動した。だが今日、ペパーの存在はほぼ忘れられ、その業績はほとんど知られていない。
トランボやバトラーについては、上島春彦『レッドパージ・ハリウッド』(作品社)を参照。
またバトラー夫妻とロバート・オルドリッチの関係については、紀伊國屋書店のDVD−BOX『フィルム・ノワール傑作選』収録『キッスで殺せ』(1955)封入冊子の解説で言及してある。
ジョージ・ペパーの娘マーゴット・ペパが生地メキシコで過ごした幼少期に両親がFBI監視下にあったことに言及している手記
「ジョーゼフ・マッカーシー上院議員の共産主義者の脅威ヒステリーの標的にされた、私の父のような数千人の急進思想家は“潜在的共産主義者”として十あまりの映画会社共通のブラックリストに載せられた。それは彼らの職業の強制終了あるいはその職業からの排斥を意味していた。他の多くの人々同様、私の一家は旅券なしでメキシコに飛び、[非米活動委員会の]召喚状を受け取ることを免れた。私の父が非米活動委員会の前に出頭しなければならなかったとしたら、セイラムの魔女裁判のように、自白を求められただろう。自分の告発者たちと同じイデオロギーや宗教をもはや信奉していないので、他の同じ信条を抱く異端者たちの名を教えるという自白をだ。そうしなければ収監される運命にあった。
私の両親はかなり長い間、亡命生活を余儀なくされ、私はメキシコ・シティで生まれ育った。数十年間、FBIは実際に私の家の電話を盗聴し、私たち宛ての郵便物を開封し、私たちを尾行し、私たちの活動にかんするバカバカしい報告書を保持していた。その主張によると、球技や私たちの友人宅での日曜日の朝食は共産党細胞の集会とされていた。FBIはメキシコの同志たちを不法に拉致し、強制送還した。FBIは監督と脚本家の印税収入を差し押さえ、ブラックリストが消滅し、彼らがオスカーを受賞した時、謝罪はあったが補償はなかった」。
今年の7月8日に90歳になる、バトラー夫人ジーン・ルヴェロルは、2000年に『ハリウッドからの避難民:ブラックリスト時代の日誌』をニューメキシコ大学出版部から刊行した。ハリウッドの赤狩りについてはテキサス大学出版部発行『シネマ・ジャーナル』誌2005年夏号(44.4)を参照。モリス・ラフの娘ジョアンナ・E・ラフ編集の特集「Children of the Blacklist,an Extended Family」にヒューゴーの息子マイケル・バトラーの論文「Shock Waves」、ドルトン・トランボの娘ニコラ・トランボの論文「A Different Childhood」、等。
『シネマ・ジャーナル』について
cmstudies.org/
utexas.edu/
muse.jhu.edu
『ハリウッドからの避難民』について
ルヴェロル脚本、バーナード・ヴォーハウス監督の『So Young So Bad』(未。1950)について
赤狩りでハリウッドを追われたヴォーハウスはイタリアでピエロ・ムセッタ名義で『貴女は若すぎる』(1953)を監督した後、同名義でチネチッタ撮影所を用いたイタリア・ロケ作品の『ローマの休日』(1953)、『裸足の伯爵夫人』(1954)、『戦争と平和』(1956)などの助監督を務めた。ロック・ミュージシャンのデイヴィッド・ヴォーハウス(ホワイトノイズ)はバーナードの息子にあたる。
『若い娘』はオルメカ・プロの製作で1960年1月18日から2月8日まで、メキシコ、チュルブスコ撮影所とアカプルコの南で撮影された。撮影見物人の中には、世界的撮影監督ガブリエル・フィゲロアの友人で『黄金』(1948)の原作者B・トレイヴンもいた。
謎の作家トレイヴン(日本ではトレヴンの表記で知られる)についての
日本語記事
「若い娘」エヴィーを演じたケイ・メイルスマンは、この映画のほかダミアーノ・ダミアーニのイタリア映画『禁じられた恋の島』(1962)に出たのみ。『若い娘』がカンヌ映画祭に出る頃、ブロードウェイのジャン・ジロドゥ劇『天使の決闘』でヴィヴィアン・リーと共演している。
ところでダミアーノ・ダミアーニの美少女映画といえば、長編監督第2作にあたる社会派「ジャッロ」(犯罪スリラー)『くち紅』(1960)とアルベルト・モラヴィアの『倦怠』に基づく『禁じられた抱擁』(1963)がある。 『くち紅』で13歳の少女シルヴァーナに扮したラウラ・ヴィヴァルディの映画出演作は、この映画1本きりである。共演は後述のピエール・ブリス。その他、『静かなアメリカ人』(1958)、『軽蔑』(1963)ではフリッツ・ラングの通訳の役を演じたジョルジア・モル、ダミアーニの長編デビュー作『シカリオ(殺し屋)』(未。1954)にも出ていたピエトロ・ジェルミも出演。『くち紅』の音楽は、『ある愛の記録』(映画祭題。1950)、『女ともだち』、『さすらい』(1957)、『二十四時間の情事』(再映題『ヒロシマ モナムール』。1959)、『情事』(1960)、『太陽はひとりぼっち』(1962)のジョヴァンニ・フスコ(1906−68)。フスコは今年10月10日、生誕100年を迎える。
ジョヴァンニ・フスコについて(伊語)
『くち紅』DVDはイタリア、メドゥーサ・ヴィデオから12月31日発売予定。
『くち紅』についての日本語記事
『太陽はひとりぼっち』についての
日本語記事
カトリーヌ・スパーク主演の『禁じられた抱擁』は、イタリア、サーフ・ヴィデオからDVDが出ている。相手役はホルスト・ブーフホルツ、その母親役はベティ・デイヴィス。脚本はダミアーニのほか、『情事』(1960)、『夜』(1961)、『太陽はひとりぼっち』(1962)のトニーノ・グエッラ、『生血を吸う女』、『禁じられた恋の島』のウーゴ・リベラトーレ。
なおモラヴィアの『倦怠』を映画化した、セドリック・カーン監督のフランス映画『倦怠』(1999)は、IMAGICAでDVD化されている。
『くち紅』の美青年役ピエール・ブリスは、紀伊國屋書店発売の『映画はおそろしい』DVD−BOX収録『生血(なまち)を吸う女』(1961)に主演。ルイージ・フィリポ・ダミーコ監督の『アキコ Akiko』(未。1961)では『007は二度死ぬ』(1967)の若林映子(あきこ)と共演。マックス・ペカス監督の『甘い暴力』(1962)ではお色気女優エルケ・ゾンマーと共演。
若林映子の写真
エルケ・ゾンマーの写真
ドイツで大ヒットしたカール・マイ原作(『ヴィネトゥの冒険−アパッチの若き勇者』、筑摩書房)、ハーラルト・ラインル監督の『シルバーレークの待伏せ』(1962)にもアパッチの勇者ウィネトゥ役で出演。ちなみにウィネトウの友人の白人カウボーイ、オールド・シャターハンドに扮すのは、10代目ターザンのレックス・バーカー。続編として、いずれもブリス出演の、フーゴ・フレゴネーゼ(ヒューゴー・フレゴネーシ)監督『騎兵隊最後の砦』(1963)、『アパッチ』(1963)、『大酋長ウィネットー』(1965)、アルフレート・フォーラー監督『荒野の決断』(1965)などが作られ、ドイツで絶大な人気を誇る。 ドイツでは昨年、ウニフェルズム・フィルムから、限定DVD−BOX『カール・マイBOX I・II・III』(各3枚組)が出ている。
ウニフェルズム・フィルムの
カール・マイDVD
ピエール・ブリスについて(独語)
2003年のアミアン映画祭ではフレゴネーゼ監督のアルゼンチン映画が上映された。また同年、シネマテーク・フランセーズで
フレゴネーゼの特集上映が行われた。
50年代ハリウッドで活躍したイタリア系アルゼンチンの映画監督フレゴネーゼは、ようやく一部で「作家」として認知され始めている。リカルド・コルテス(ラティーノ風の芸名だが東欧ユダヤ系オーストリア移民の子である。本名ヤーコプ・クランツ)の実弟の撮影監督スタンリー・コルテス(本名スタニスラウス・クランツ)とフレゴネーゼが組んだ、シドニー・ボーム脚本、エドワード・G・ロビンソン主演の名高いフィルム・ノワール『死刑五分前』(1955)のDVD化が待たれる。 カナダ国境のヴァーモント州セイント・アルバンズを舞台にした南北戦争ものの異色作『7人の脱走兵』(放映題。1954)も興味深い。1864年の南部連邦隠密作戦を扱った唯一の映画である。撮影はリュシアン・バラード、主演はヴァン・ヘフリンとアン・バンクロフト。ジェイムズ・メイソン主演のメキシコを舞台にしたフィルム・ノワール『一方通行路』(未。1950)も一部で評価が高い。
今年10月9日に20回忌を迎えるハーラルト・ラインルは、1908年、オーストリアのバート・イシュル生まれ。若い頃、スキーヤーとしてアーノルト・ファンク監督、レニ・リーフェンシュタール主演の山岳映画『モンブランの嵐』(1930)、『白銀の乱舞』(1931)に端役出演。レニ・リーフェンシュタールの『低地』(未。1940−53)の助監督を務め、1949年にアーダルベルト・シュティフターの『石さまざま』(1853)収録の同名小説に基づく初の長編『水晶』(未)を撮った。 なお『水晶』は『スターリングラード』(1993)のヨーゼフ・フィルスマイヤー監督により2004年にリメイクされ、ドイツ、コンコード・ホーム・エンターテインメントからDVDが出ている。
『モンブランの嵐』米キノ・ヴィデオ盤DVD。特典にファンクの1924年の短編記録映画『マローヤの雲現象』(未)付き。
『低地』独アルトハウス盤DVD
『水晶』(2004年版)独コンコード盤DVD
ラインルは西ドイツで「クリミ krimi」映画と呼ばれ、イタリアの「ジャッロ giallo」(犯罪ミステリ)映画の原型とされる60年代前半に流行した犯罪猟奇スリラー映画の古典の監督として有名だ。「クリミ」のルーツは、デンマークのリアルト・フィルムのプレーベン・フィリプスン(2005年9月21日没)製作、ラインル監督の『仮面をつけた蛙』(未。1959)と言われる。原作は、『キング・コング』(1933)の原作者でドイツで絶大な人気を誇る英国人作家エドガー・ウォレスの小説。この後、エドガー・ウォレスものは次々と映画化された。ドイツ、ウニフェルズム・フィルムは『エドガー・ウォレス・エディション』DVD−BOXを第8集まで出している。第7集までは4枚組、第8集は5枚組。
『仮面をつけた蛙』について(独語)
『仮面をつけた蛙』独ウニフェルザル盤DVD
『エドガー・ウォレス・エディション』
クリミ映画について(英語)
リアルト・フィルムHP(英語あり)
リアルトはドイツ市場向けに32本の映画を製作した。たびたび監督に起用されたのは、アルフレート・フォーラー(14作)とハーラルト・ラインル(5作)である。ラインルは、日本では、独文学者、種村季弘が絶賛し、『ソドムの市』(2004)の監督、高橋洋に影響を与えた『怪人マブゼの挑戦』(原題『マブゼ博士の鋼鉄網』。1961)の監督として知られる。同作は、『007/ゴールドフィンガー』(1964)のゴールドフィンガー役でおなじみのゲルト・フレーベ、レックス・バーカー主演。『白い肌に狂う鞭』(1963)のダリア・レヴィ共演。
『マブゼ博士傑作集』DVD−BOX(6枚組)、独ウニフェルザル盤収録作
『怪人マブゼ博士』(原題『マブゼ博士の千の眼』1960。監督フリッツ・ラング)
『怪人マブゼの挑戦』(原題『マブゼ博士の鋼鉄網』。1961。ハーラルト・ラインル)
『怪人マブゼ博士・姿なき恐怖』(放映題。原題『マブゼ博士の見えない爪』。1961。監督ハーラルト・ラインル)
『怪人マブゼ博士・恐るべき狂人』(放映題。原題『マブゼ博士の遺言』。1962。監督ヴェルナー・クリングラー)
『怪人マブゼ犯罪指令』(放映題。原題『スコットランド・ヤード対マブゼ博士』。1963。監督パウル・マイ)
『怪人マブゼ博士・殺人光線』(放映題。原題『マブゼ博士の殺人光線』。1964。監督フーゴ・フレゴネーゼ)
米オール・デイ・エンターテインメントからは『ジキル博士の二つの顔』(1960)のドーン・アダムズ主演『怪人マブゼ博士』(1960)とゲルト・フレーベ主演『怪人マブゼ博士・恐るべき狂人』の特別盤DVDが出ている。 共にオール・デイの主宰者デイヴィッド・カラット(1970年生まれ)の音声解説付き。前者は長年流通していた16ミリ・プリントでなく良好な35ミリ・プリントに基づく。特典は前者がオリジナル記録映画『フリッツ・ラングの眼』(2000。34分)、後者が『怪人マブゼ博士』(原題『マブゼ博士の遺言』1933)の米国公開・吹替え編集短縮版『マブゼ博士の犯罪』(1952)。
上記2作品に加え、マブゼ博士ものの映画12本と小説5作に関するデイヴィッド・カラットの研究書『マブゼ博士の奇妙な事件』(2001。300頁、写真110点)を併せた『マブゼ博士3パック・コレクターズ』もある。
『マブゼ博士の奇妙な事件』はオンラインのみの販売。ペーパーバックで29.95ドル。
カラットは「第8回」で紹介した米キノ盤『緋色の街〜スカーレット・ストリート』(放映題。1945)の音声解説を担当しているほか、2001年には米イメージ・エンターテインメント盤『ドクトル・マブゼ』(1922。229分)の音声解説を高名な映画修復家のデイヴィッド・シェパードと共に担当。カラットとオール・デイ・エンターテインメントについて
ノルベルト・ジャック(1880−1954)のベストセラー小説『ドクトル・マブゼ』(1921)の邦訳は2004年、ハヤカワ・ポケット・ミステリの「ポケミス名画座」シリーズの一編として出た。
このほか、マブゼ博士もの映画には、ジェス・フランコ監督のスペイン=西ドイツ合作映画『M博士、強打する』(未。スペイン語題『マブゼ博士の復讐』。1972)がある。
ジェス・フランコについて(日本語) / 木野雅之・編著『異形の監督 ジェス・フランコ』(洋泉社)も参照。
米キノ・ヴィデオから7月18日に
『ドクトル・マブゼ』(1922)のDVDが出る
これはドイツのフリードリヒ・ヴィルヘルム・ムルナウ財団が2000年に修復した版(270分)に基づく。ベルリンのドイツ連邦アルヒーフ=フィルムアルヒーフ、ミュンヘン映画博物館所蔵のキャメラ・ネガを用いた修復版。最長版というだけでなくラングの意図に最も近いとされる版。特典は『ドクトル・マブゼの内幕話 The Story Behind Dr. Mabuse』(52分)。
ドイツでは2004年にウニフェルズム・フィルムから同じ素材に基づく『ドクトル・マブゼ』DVDが出ている。特典は「南ドイツ新聞」に寄稿する映画批評家ハンス・ギュンター・プフラウムの『ドクトル・マブゼの変容 Die Metamorphosen des Dr. Mabuse』(52分)。これは2001年に『ドクトル・マブゼ』のスコアを作曲したアリョーシャ・ツィンマーマン(1944年、ラトヴィア、リガ生まれ)が語る『マブゼの音楽』(13分)、マブゼ博士原作3巻本の共編者で、『ドクトル・マブゼ』、『メトロポリス』、『蜘蛛』第一部『黄金の湖』のラジオ放送劇の台本作家でもあるミヒャエル・ファリンが原作者について語る『ノルベルト・ジャック−マブゼ博士の文学的創案者』(9分)、『マブゼの主題』(30分)の3つの短編から構成される。おそらくキノ盤の特典もこれと同一のものと思われる。ミヒャエル・ファリンのインタヴューは米クライテリオン盤『怪人マブゼ博士』(1933)にも収録。
『ドクトル・マブゼ』独ウニフェルズム盤DVD/
レヴュー(ドイツ語)
『怪人マブゼ博士』(1933)米クライテリオン盤DVD
同じく2004年に出た英国ユリイカ盤『ドクトル・マブゼ』DVDも同じ素材に基づく。特典は、『マブゼの音楽』、『ノルベルト・ジャック』、『《ドクトル・マブゼ》の動機と主題』ほか。これも『ドクトル・マブゼの変容』と同一素材である。
『ドクトル・マブゼ』英ユリイカ盤DVD/
レビュー
『ドクトル・マブゼ』米イメージ・エンターテインメント盤と英ユリイカ盤の比較 アリョーシャ・ツィンマーマンのインタヴュー(ドイツ語)
フリードリヒ・ヴィルヘルム・ムルナウ財団
なお同じ素材を用いた国内盤DVDが紀伊國屋書店の「フリッツ・ラング・コレクション」でリリース予定。
ちなみに、「ジャッロ」のルーツとされるのはマリオ・バーヴァ監督の『知りすぎた少女』(DVD題。1962)。脚本には『血ぬられた墓標』にも参加したエンニオ・デ・コンチーニが参加。これに続くバーヴァの『モデル連続殺人!』(1964)も「ジャッロ」の代表作の1本とされる。
『知りすぎた少女』の主演女優レティシア・ロマンは、ダミアーノ・ダミアーニ脚本・監督の『同窓会』(未。1963)にも出演している。またロマンは、ジョン・クレランドの高名な発禁小説(1749年執筆)に基づく、ラス・メイヤー監督の『ファニ・ヒル』(未。1964)ではファニー・ヒル役を演じている。 共演は『極楽特急』(1932)、『生活の設計』(1933)、『虚栄の市』(1935)のミリアム・ホプキンズ、『愛は死より冷酷』(DVD題。1969)のウリ・ロンメル。
クレジットなしで、『風と共に散る』(1956)、『翼に賭ける命』(1958)、『黒い罠』(1958)、『女を売る街』(1962)の製作者アルバート・ザグスミスも演出。ザグスミスは出演もしている。ザグスミスについては柳下毅一郎『興行師たちの映画史』(青土社)も参照。『ファニー・ヒル』のDVDはドイツ、ウニフェルズム・フィルムより7月31日発売。
『ファニー・ヒル』独ウニフェルズム盤DVD
・「第5回」の補足情報
米フォックス・ホーム・エンターテインメント社は、9月5日にジェシー・ジェイムズもの3タイトル、『地獄への道』(1939。監督ヘンリー・キング)、『地獄への逆襲』(1940。監督フリッツ・ラング)、『無法の王者ジェシイ・ジェイムス』(1957。監督ニコラス・レイ)の
DVD発売を発表。国内盤発売可能性あり。