第9回 アンソニー・マン生誕100年、ジョン・オルトン没後10年








やはり未だ発見途上にあるのだろうか、アンソニー・マン生誕100年を顕彰しようという声をほとんど聞かない。マンが生まれたのは1906年6月30日。亡くなったのは1967年4月29日。

マン監督作の見直しということでは、2004年のサンセバスチャン映画祭の特集上映とそれに伴う豪華カタログの刊行という出来事があった。もともとマンの評価の高いフランスのシネマテークでは、今年2月から3月にかけほぼ全作を網羅した特集上映が行われた。

とはいえ、マンは忘れられつつある監督の一人であり、それを再発見しようとする映画批評・映画史研究的な動きは、まだ充分に活性化しているとは言いがたい。

そんな中、米ワーナーのフィルム・ノワールDVD−BOX第3弾に、マンの『国境事件』(未。1949)が収録されるという朗報がある。映画史家デイナ・ポランの音声解説付き。発売は7月18日。他の収録作は『替え玉殺人計画』(放映題。1951)、『湖中の女』(1951)、『危険な場所で』(1952)、『脅迫者』(ビデオ題。1951)。これに特典ディスクが付く6枚組。

『フィルム・ノワール古典コレクション第3巻』米ワーナーDVD−BOX

『国境事件』はマンの初期のキャリアの中にあって、自身の会心作というべき一本である。実録風の原作・脚本を書いたジョン・C・ヒギンズは『偽証』(放映題。1947)、『Tメン』(未。1947)、『ひどい仕打ち』(未。1948)、『夜歩く男』(1948年。監督はアルフレッド・ワーカー名義)とマン監督の出世作となった低予算ノワールの脚本を手がけていた人物。

カルフォニア州のメキシコ国境の農業地帯で、稼いだ金を持って帰国しようとする不法入国者のメキシコ人たちが夜間何者かに襲撃され、惨殺された上、持ち金を奪われる。この事件を捜査するため、メキシコの連邦捜査官(リカルド・モンタルバン)、米国の連邦捜査官(ジョージ・マーフィ)が協力し、捜査に乗り出す。メキシコ人捜査官は、不法入国者に紛れて潜入捜査を試みる。米国人捜査官は、貧しいメキシコ農民を短期の農業労働者として不法入国させ、収奪している悪辣な農場主(ハワード・ダ・シルヴァ)を欺こうとするが、逆にやられてしまう。冒頭と結末のインペリアル・ヴァリーでのアクション場面はほとんどマン西部劇の世界と言ってよい。

マーフィは『ロナルド・レーガンの陸軍中尉』(ビデオ題。1943)で共演した、後の大統領ロナルド・レーガンの友人で、50年代には政治家に転身、カルフォニア州の共和党中央委員会の委員長となり、1964年には合衆国上院議員に選出される。皮肉にも、60年代に「メキシコ人だけが農業労働に向いている。なぜならより地面に近く造られたからだ」と問題発言をしている。

英「スクリーン」誌1969年7月−10月号掲載のマン・インタヴュー(仏「ポジティフ」誌1968年4月号掲載インタヴューの別ヴァージョン)から引用する。

「メトロは言った。《好きな映画を作ってくれ》。ジョン[・オルトン]と私は『国境事件』を撮ろうと考えた。そこにも登場人物に連邦調査官、Tメン(財務省調査官)が出てくるからだ。『Tメン』を撮る際の調査で、『国境事件』の男達のすばらしい物語に出会った。ロケ撮影を行ったが、メトロにとっては小品だった。封切った時、連中は仰天した。連中がこれが《映画》というものだと思い込んでたものと違ったんだ」。

実際、経済的弱者の迫害を記録映画風の写実主義で再現する題材の暗さもさることながら、この映画の視覚的暗さは尋常ではない。画面全体がはっきり見渡せるような瞬間は皆無に近く、しばしば暗黒に近い場面も現れる。低予算的な闇の効果を基調とし、遠近感を誇張する対角線構図の力強いアングルが多用される。

『国境事件』レヴュー(英語) www.filmmonthly.com /www.crimeculture.com/www.bighousefilm.com

ハリウッドにおけるラティーノの表象を扱った記録映画『ブロンズ・スクリーン:アメリカ映画におけるラティーノのイメージの100 年』(2002)も参照。「ラティーノ」とはスペイン語、ポルトガル語を用いる南米出身者とその子孫のこと。リカルド・モンタルバンのほか、リタ・モレノ、ラクェル・ウェルチ、セサール・ロメロ、ルーベン・ブラデスら、ラロ・シフリンの談話映像、ドロレス・デル・リオ、カルメン・ミランダ、アンソニー・クイン、リタ・ヘイワース、ホセ・フェレールらのフッテージで構成。ナレーターは、チャールズ・ベネット監督の『グラス・シールド』(1994)やクリント・イーストウッド監督の『ブラッド・ワーク』(2002)のワンダ・デ・ヘスス。

『ブロンズ・スクリーン』DVD

参照サイト

8月15日には米ワーナーから『裸の拍車』(1953)のDVDも出る。同時に『ジェイムズ・スチュワート・シグネチャー・コレクション』(5枚組)も出る。収録作は『テキサス魂』(1970。監督ジーン・ケリー)+『ファイヤークリークの決斗』(1968。監督ヴィンセント・マッキヴィーティ)、『連邦警察』(1959。監督マーヴィン・ルロイ)、『裸の拍車』、『翼よ!あれが巴里の灯だ』(1957。監督ビリー・ワイルダー)、『蘇る熱球』(1949。監督サム・ウッド)。

『ジェイムズ・スチュワート・シグネチャー・コレクション』

同DVD−BOX情報

『裸の拍車』の単品DVDはおそらく日本盤も出るだろう。

  ジョナサン・ローゼンバウムの選ぶ異色西部劇12選

1『果てしなき蒼空』(ハワード・ホークス、1952)
2『インディアン渓谷』(ジャック・ターナー、1946)
3『デッド・マン』(ジム・ジャームッシュ、1996)
4『四十挺の拳銃』(ビデオ題。サミュエル・フラー、1949)
5『拳銃王』(ヘンリー・キング、1950)
6『大砂塵』(ニコラス・レイ、1954)
7『リバティ・バランスを射った男』(ジョン・フォード、1962)
8『裸の拍車』(アンソニー・マン、1953)
9『ひとり馬を駆る』(未。バッド・ベティカー、1959)
10『銃撃』(DVD題。モンティ・ヘルマン、1966)
11『テキサスの死闘』(放映題。ジョーゼフ・H・ルイス、1958)
12『血ぬられし爪あと/影なき殺人ピューマ』(放映題。ウィリアム・ウェルマン、1954)

同時に『ロナルド・レーガン・シグネチャー・コレクション』(5枚組)も発売。収録作は『嵐の青春』(1942。監督サム・ウッド)、『ニュート・ロック、オール・アメリカン』(未。1940。監督ロイド・ベイコン)、『命ある限り』(1949。監督ヴィンセント・シャーマン)、『目撃者』(放映題。1951。監督スチュワート・ヘイスラー)、『勝利チーム』(未。1952。監督ルイス・セイラー)。『嵐の青春』と『ニュート・ロック』のみ単品発売あり。後者にはアカデミー短編賞に輝くシオドア・ローズヴェルトの短編伝記映画『テディ、ラフ・ライダー』(未。1940年。監督レイ・エンライト)が付く。テディに扮すのは『これが私の職務』(未。1939)以来、映画でたびたびテディに扮したシドニー・ブラックマー。「ラフ・ライダー」とは米西戦争(1898)でテディが率い、キューバで戦った米国の義勇騎兵隊の隊員のこと。

『ロナルド・レーガン・シグネチャー・コレクション』
『ロナルド・レーガン・シグネチャー・コレクション』情報

『嵐の青春』は、音楽がエリッヒ・ヴォルフガング・コルンゴルト、撮影がジェイムズ・ウォン・ハウ、美術がウィリアム・キャメロン・メンジーズという最強スタッフ。主演は『僕は戦争花嫁』(1949)のアン・シェリダンと『秘密指令(恐怖時代)』(1949)のロバート・カミングス。レーガン自身、出演作の中でダントツのお気に入りだった。ヘンリー・ベラマンの原作(1940)はスキャンダラスなものだったので、製作者のハル・ウォリスは、1934年以後、映画製作規定管理局(PCA)の責任者だったジョー・ブリーンと粘り強く交渉し、何度も脚本を改稿させた。最後まで難航したのは、ボブ・カミングス扮するパリス・ミッチェルの初恋の相手で、父親に毒を盛られるキャシー(カサンドラ)役の配役だった。検閲のある当時としてはきわどい汚れ役だった。ウォリスは当初、アイダ・ルピノを希望したが、断わられた。結局、『廿日鼠と人間』(1939)のベティ・フィールドが選ばれた。

『嵐の青春』サントラのオリジナル・スコア再録音の全曲盤CD(チャールズ・ゲルハルト指揮、ナショナル・フィルハーモニー管弦楽団)は米Varese Sarabandeから出ていたが廃盤。コルンゴルトについては早崎隆志『コルンゴルトとその時代』(みすず書房)をも参照。

コルンゴルトについて(日本語) MoMAのジェイムズ・ウォン・ハウ回顧上映(2001年)情報 ターナー・クラシック・ムーヴィーズ(TCM)のジェイムズ・ウォン・ハウ特集

クレジットなしでレーガンがカーティスP−40パイロット、ジミー・ソンダース役で出演した米空軍第1映画班製作のパイロット教育用映画『ジャップのゼロ戦』(映画祭題。1942。監督バーナード・ヴォーハウス)もパブリック・ドメインのDVDで見ることができる。たとえば、ブレントウッド・ホーム・ヴィデオの『WWII:The Ultimate Collection』には、10枚の両面ディスクに26時間以上に及ぶ30本の第二次大戦関連映像を収録。廉価DVD−BOXに特化したブレントウッド社の方針で、古いヴィデオ原版使用のため画質は劣悪。その他の主な収録作。ガーソン・ケイニン、キャロル・リード監督『真の栄光』(未。1945。84分)、フランク・キャプラ監督『汝の敵を知れ!』(DVD題。1944)、『戦争への序曲』(映画祭題。1942)、ジョン・フォード監督『真珠湾攻撃』(1944)、『ミッドウェイ海戦』(1943)、ウィリアム・ワイラー監督『空母ファイティング・レイディ』(未。1945。60分)、『メンフィス・ベル』(DVD題。1944)、ジョン・スタージェス、ウィリアム・ワイラー監督『サンダーボルト戦闘機』(未。1947。45分)、J・L・ホドソン監督の英国映画『砂漠の勝利』(未。1943。60分)、ジャック・ハイヴリー監督『日本軍を破れ』(DVD題。1945)、ジョージ・スティーヴンス監督『ナチ強制収容所』(未。1945。60分)、ジョン・ヒューストン監督『そこに光を』(映画祭題。1946)、『サン・ピエトロの戦い』(1945)、『アリューシャン列島からの報告』(未。1943。47分)など。いくつかの作品はインターネット・アーカイヴで観られる。

『ナチ強制収容所』

『WWII:The Ultimate Collection』

『ジャップのゼロ戦』は1991年の山形国際ドキュメンタリー映画祭(YIDFF)の「日米映画戦」で上映された。

YIDFF'91 上映全作品リスト

ちなみにジミー・スチュワートはP−47サンダーボルト戦闘機の記録映画『サンダーボルト戦闘機』でナレーターを務めた。

上野俊哉、マーク・ノーネスほか『日米映画戦−パールハーバー五十年』(青弓社)も参照。英語版『The Japan/America Film Wars: World War II Propaganda and Its Cultural Contexts (Studies in Film and Video, Vol 1)』はHarwood Academic Pub.刊。

アンソニー・マンの話題に戻ろう。RKO社の珍しい低予算映画を次々とDVD化しているスペインのマンガ・フィルムスは、アンソニー・マンの『二時の勇気』(未。1945)『帰り道で歌おう』(未。1945)のDVDを6月7日に発売。

『二時の勇気』は30年代にRKO社でB級映画を監督し、40年代に製作者に転じたベンジャミン・ストロフ監督、ニコラス・ムスラカ撮影の『闇の中の二人』(未。1936)のリメイク。製作はストロフ。主演は『第七の犠牲者』(未。1943)などのB級スター、トム・コンウェイと『風と共に去りぬ』(1939))でスカーレット・オハラの下の妹カリーンを演じたアン・ラザフォード。『過去を逃れて』(DVD題、1947)などのジェイン・グリアの初クレジット作でもある。

カナダ出身のラザフォードは、『風と共に去りぬ』に関するデイヴィッド・ヒントン監督のメイキング映画『風と共に去りぬ/幻のメイキング』(放映およびビデオ題。1989。123分)にも出演している。同作は『風と共に去りぬ』スペシャル・エディション(4枚組)DVDに収録されている。

『幻のメイキング』に引用される、スカーレット・オハラ候補だった女優の一人スーザン・ヘイワード(本名イディス・マリナー)のテスト・フィルム(1937年12月2日あるいは6日)はマンが演出したもの。当時、彼女は19歳。マンは映画監督になる前、本名アントン・ブンズマン名義でニューヨークの舞台演出家として活動した後、デイヴィッド・O・セルズニックの下で、当初やはり舞台演出出身のジョージ・キューカーが監督を手がけていた『風と共に去りぬ』のオーディションを手伝った。ジュディ・キャメロン、ポール・J・クリストマン『風と共に去りぬ・写真集』(新潮文庫)も参照。

『二時の勇気』について

『風と共に去りぬ』主演女優探しについて
テスト・フィルムを撮った女優の時系列順リスト掲載。タルラ・バンクヘッド、ポーレット・ゴダード、フランシス・ディー、ラナ・ターナー、ジーン・アーサー、ジョーン・ベネット、ヴィヴィアン・リー(1938年12月21、22日)など。

ブンズマンがセルズニックに宛てた手紙 当時モデルだったスーザン・ヘイワードのリハーサルを行ったことが報告されている。

『帰り道で歌おう』(未。1945)は戦後のパリからニューヨークに帰るティーンのエンターテイナーたちの乗る小さな船を舞台にしたミュージカル。題名は有名な民謡「Sing Your Way Home」から採られている。スタンダード歌曲「風と共に去りぬ」(1937。同名映画とは無関係)で有名なアリー・リューベル作曲、ハーブ・マジソン作詞のオリジナル歌曲「I'll Buy That Dream」はアカデミー歌曲賞候補となった。主演のジャック・ヘイリーは『オズの魔法使』(1939)のブリキ男役で有名。『犯罪王ディリンジャ』(1945)の女優アン・ジェフリーズも出演。

ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパンは初回限定でマンの『ウィンチェスター銃'73』(1950)、『怒りの河』(1952)、『遠い国』(1954)DVDを6月23日発売。いずれも再発盤。同時に、これも再発だが、ジミー・スチュワート主演の西部劇『夜の道』(1957)も出る。ジェイムズ・ネイソン監督作だが、一連のマン=スチュワートもの西部劇で知られるエアロン・ローゼンバーグが製作。紀伊國屋書店はマン生誕100年にあわせ、戦闘映画の傑作『最前線』(1957)とアースキン・コールドウェルの超ベストセラーに基づく『神の小さな土地』(公開題『真昼の欲情』。1958)のDVDを発売する。マンの初期の経歴についてはそれぞれの封入冊子を参照。

『最前線』は国内ではビデオで出ていたものの、今やレンタル店でもめったに見ることのない隠れた傑作。ロケ地のブロンソン・キャニオンはハリウッド近郊の最も有名なロケ地で、多くの映画やTVドラマが撮られている。『捜索者』(1956)でジョン・ウェインが洞窟の前で姪のナタリー・ウッドを殺す代わりに抱き上げる場面のほか、『ボディ・スナッチャー/恐怖の街』(DVD題。1956)、『昼下がりの決斗』(1962)の一部など。

『最前線』のロケ地ブロンソン・キャニオンの紹介 www.dvdtalk.com/employees.oxy.edu

『神の小さな土地』は有名原作の映画化であるにもかかわらず、初ソフト化であると同時に、UCLAの修復した、検閲前の未公開長尺版を収録している。この長尺版は結末が公開版のハリウッド的ハッピー・エンディングとは真逆で、主人公タイ・タイ(ロバート・ライアン)の性懲りもない浅ましさを暗示して終わる。なお、劇場公開版の結末は特典映像として別収録される。プルート・スウィント役のコメディアン、バディ・ハケットは2003年6月30日に亡くなった。6月30日は前述のようにマンの誕生日でもある。日本でのマン監督作受容は、1950年代のジミー・スチュワート西部劇に極度に偏しているのは確かだろうから、まずこの2作を観ることで、マン演出、とりわけダイナミックな空間造形の冴えを感じ取っていただきたい。

ところでこの2作は、共に悪名高い脚本家・プロデューサー、フィリップ・ヨーダンのセキュリティ・ピクチャーズの製作であり、脚本名義はヨーダンだが、実際の脚本家は、赤狩りで表立ってハリウッドで活動することを禁じられたベン・マドウである。ヨーダンやマドウについては上島春彦『レッドパージ・ハリウッド』(作品社)に詳しい。とりわけ第3章「ある「透明人間」の人生——ベン・マドウ」、第4章「保護者の栄光と悲惨——フィリップ・ヨーダン」を参照。

セキュリティ・ピクチャーズがコーネル・ワイルドとその夫人ジーン・ウォレスの個人プロ、シオドラ・プロと共同で製作したフィルム・ノワールの傑作『ビッグ・コンボ』(公開題『暴力団』。1955)も昨年、『フィルム・ノワール傑作選』BOX収録という形で、紀伊國屋書店からDVD化された。日本初ソフト化である。監督は『拳銃魔』(1949)のジョーゼフ・H・ルイス。ルイスはB級監督というレッテルで語られることが多いが、『拳銃魔』、『ビッグ・コンボ』共に準A級(A面/B面序列なしの2本立て興行向け)である。ルイスの典型的なB級時代の監督作のいくつかは、米アルファ・ヴィデオでDVD化されているが、真に観るべきは『私の名前はジュリア・ロス』(未。1945)以後の作品だろう。ルイスの経歴については『ビッグ・コンボ』封入冊子を参照。ルイスの演出したTV西部劇『ライフルマン』の数話は、日本でもビデオ化されていたが米MPIからDVD化されている。

『ライフルマン』米MPI盤DVD

すでに米盤(日本語字幕付き)で出ていた西部劇『捨身の一撃』(1955)は、ソニー・ピクチャーズからBOXのみ発売の『Columbia Tristar ザ・ウエスタン・ムービーズ VOL.5 ランドルフ・スコット スペシャルBOX』に収録。発売日は5月24日。ランディ・スコット主演のルイスのもう1本の異色西部劇『第7騎兵隊』(放映題。1956)もDVD化が待たれる。これは1876年のリトル・ビッグホーンの戦い以後の物語でカスター将軍は出てこないし、インディアンとの殺し合いも回避されるという珍品。

ルイスがジョー・ルイス名義でチョイ役で出演した、ブリジット・フォンダ主演の低予算映画『レザー・ジャケット』(DVD題。1991)もソニー・ピクチャーズから昨年DVD化された。監督・脚本のリー・ドライズデルはブリジット・フォンダの元恋人。

『ビッグ・コンボ』は撮影監督ジョン・オルトンの見事な照明技術を鑑賞する喜びも与えてくれる。オルトンはアンソニー・マンと組んだ何本かのフィルム・ノワールでも真価を遺憾なく発揮しているが、『国境事件』もその1本である。今年の6月2日はオルトン没後10年にあたる。オルトン略歴は『ビッグ・コンボ』封入冊子を参照。児玉数夫・吉田智恵男『昭和映画世相史』(社会思想社)で、児玉は、本邦初公開のアルゼンチン映画『黒い瞳の女』(35年)が東宝により1941年9月23日に封切られたのに続いて、『薔薇のタンゴ』(36年)が同年10月28日に封切られた旨を記している。

『薔薇のタンゴ』の原題は『Puerta cerrada』(1938)。同作は監督ルイ・サスラフスキー、撮影はジョン・オルトンである。オルトンの本邦初公開作と思われる。ちなみに『黒い瞳の女』の原題は『La Vida es un tango』(1939)。上記の『ビッグ・コンボ』封入冊子では未公開作扱いになっているので、この場を借りて訂正しておく。

オルトンの有名な映画照明教科書『光で描く』についての日本語記事

画質が劣悪なのが惜しまれるが、マン=オルトンの傑作として、アルファ・ヴィデオからDVD化されている『秘密指令(恐怖時代)』を挙げておく。フランス大革命のロベスピエールによる恐怖政治を扱った異色フィルム・ノワール。流麗な叙述のテンポと、ケレン味たっぷりのバロック的空間構図と大胆な照明技法がすばらしい。製作は『海外特派員』(1940)や『扉の影の秘密』(公開題『扉の蔭の秘密』。1948)のウォルター・ウェインジャーと、H・G・ウェルズ脚本、英国の古典SF映画『来るべき世界』(1936)のウィリアム・キャメロン・メンジーズ。脚本はフィリップ・ヨーダン。同作はパブリック・ドメインなので、劣悪なビデオ等が流通しているが、良質なマスターに基づくDVD化が待望される。ちなみに米アルファ・ヴィデオ盤の画質は残念ながらVHS以下である。

『秘密指令(恐怖時代)』米Alpha盤DVD/レヴュー

オルトンのB級時代の作品のいくつかは米アルファ・ヴィデオほかでDVD化されている。

オルトンは『巴里のアメリカ人』(1951)の幻想的ダンス・シークエンスの撮影でオスカーを獲得したのだが、ベネディクト・ボージェス製作、オルトンとアラン・ドワン監督の組んだカラー・ノワールの代表作として、町で孤立し、誤解から私刑に処せられようとする男(ジョン・ペイン)の闘いを扱った『逮捕命令』(1954)、同じくジョン・ペイン主演で、ジェイムズ・M・ケイン『恋のからくり』に基づく『悪の対決』(1956)の2本を挙げておく。いずれも日本公開作ながら国内ではソフト化されていない。後者は今年公開50年にあたる。

アラン・ドワン・インタヴュー(1980年12月)
ドワン西部劇について

ドワン、オルトンのコンビ作でロナルド・レーガンが出た2本の西部劇、『バファロウ平原』(1954)と『対決の一瞬』(1955)も米VCIからDVDが出ている。『対決の一瞬』はスーパースコープとされるが、スタンダード収録。

スーパースコープ作品リスト
スーパースコープについて 英語/日本語

前者は、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)で主人公が1955年に戻る時に登場。言うまでもなく、1985年当時の米大統領はレーガンだが、30年前にそれを予測できたはずはない。50年代の赤狩りに手を貸したレーガンは、1966年にカルフォニア州知事となり、1980年から89年まで大統領を務めた。後者ではジョン・ペインと共演。

『神の小さな土地』で、タイ・タイの長男ジム・レズリーに扮するランス・フラーも、『バファロウ平原』、『悪の対決』など、いくつかのドワン=オルトン作品に出ている。

オルトン撮影ではないが、ベネディクト・ボージェス製作、アラン・ドワン晩年のカルト作『断崖の河』(1957)がついに米フォックスでDVD化される。7月11日発売。今後、日本盤発売の可能性もあるだろう。撮影はハロルド・リプスタイン。アンソニー・クイン、レイ・ミランド、デブラ・パジェットの三人が主要登場人物。ただし、米フォックス・ムーヴィ・チャンネル放映版では、夜間場面のカラー・タイミング(色バランス補正)が暗くツブレすぎていたので、そのあたりの色調が気になるところ。タイミング・データが残っていない可能性もある。また放映版は左右の画角も欠けていたという疑惑もある。