4月5日に出た仏MK2の『ドライヤーDVD−BOX』は米クライテリオン盤BOXとどう違うのか興味深いところ。
ちなみにクライテリオン盤『カール・テオドア・ドライヤーDVD−BOX』には、『怒りの日』(1943。97分)、『奇跡』(1955。125分)、『ゲアトルーズ』(1964。116分)、トーベン・スクヨット・イェンスン監督の『カール・テオドア・ドライヤー:わが職業』(未。1995。94分)を収録。
『カール・テオドア・ドライヤーDVD−BOX』米クライテリオン盤
『ドライヤーDVD−BOX』仏MK2盤
MK2盤BOXの収録作は『奇跡』(120分)、『ゲアトルーズ』(133分)、『あるじ』(1925年。107分)、『吸血鬼』(1932。70分)、『怒りの日』(1943。93分)、『カール・テオドア・ドライヤー:わが職業』(93分)。トーキー作品はPALスピードアップにより収録時間が4%短い(音声ピッチがその分高い)。『吸血鬼』は米イメージ・エンターテインメント盤(66分)より長いが現時点で詳細は不明。
マルティン・ケルバー「『メトロポリス』の増殖に関する覚書」は、朝日新聞社、東京ドイツ文化センター主催『映画祭「ドイツ時代のラングとムルナウ』カタログに掲載。
注目の特典は『奇跡』がビアギッテ・フェザースピール(『奇跡』のインガー役)・インタヴュー(1995)、ヘニング・ベンツセン(撮影)インタヴュー(1966&1995)。『ゲアトルーズ』の特典は、ボアズ・オーヴェ(『ゲアトルーズ』のエアラン・ヤンソン役)インタヴュー、アクセル・ストレビュ(『ゲアトルーズ』)インタヴュー、『ゲアトルーズ』セットのドライヤー、ヴェネツィア映画祭で国際批評家連盟(FIPRESCI)賞を受け取るドライヤー(1965)、『ゲアトルーズ』パリ・プレミア上映。これらは『カール・Th・ドライヤーとゲアトルーズ』(未。1994。監督クリスティアーネ・ハービッヒ、ラインハルト・ヴルフ)に含まれる映像だろう。『吸血鬼』の特典は短編『彼らはフェリーに間に合った』(1948)。『怒りの日』の特典は、プレベン・レアドーフ・リュエ(『怒りの日』のマーチン役)インタヴュー(1966&1995)、リスベト・モーヴィン(『怒りの日』のアンネ役)インタヴュー(1966&1995)。『わが職業』の特典は、ヨアン・ロース(『彼らはフェリーに間に合った』、『城の中の城』撮影)インタヴュー(1966&1995)、エレーヌ・ファルコネッティ・インタヴュー(1995)。1965年のインタヴュー素材は、エリック・ロメール演出『われらの時代の映画:カール・Th・ドライヤー』のものと思われる。日本では1991年4月、草月ホールでの「現代の映画作家たち」特集の1本として上映された。このほか各作品にパトリック・ザイエンの映像分析が付く。
MK2盤の
レヴュー(デンマーク語)
では3月と4月に英BFIから出たドライヤーDVDはどうだろうか。ちなみにPALスピードアップにより収録時間は4%短い。
まず『怒りの日』(95分)の特典は、デンマークのドライヤー研究者でクライテリオン盤『裁かるるジャンヌ』(1927)や英ユリイカ盤『ミカエル』(1924)の音声解説も行っているカスパー・ ティベアCasper Tybjerg(ケベンハウン(コペンハーゲン)大学)の音声解説、ドライヤー監督の短編『癌との戦い』(1947。15分) 、『城の中の城』(1955。8分)。 『ゲアトルーズ』(112分)の特典は、クリスティアーネ・ハービッヒ、ラインハルト・ヴルフ監督の記録映画『カール・Th・ドライヤーとゲアトルーズ』(未。1994。29分) 、ドライヤー監督の短編『村の教会』(1947。14分)。 『あるじ』(92分)の特典は、『わが職業』、ドライヤーの2短編『母親支援』(1942。12分)、『彼らはフェリーに間に合った』(1948。11分)。 『奇跡』(原題『言葉』。119分)の特典は、ヘニング・ベンツセン(撮影)と『奇跡』製作背景に関する記録映画『言葉と光 Ordet Og Lyset』(未。監督ヘルガ・テイルゴー Helga Theilgaard。2001。33分) 、ドライヤーの2短編『トーヴァルセン』(1949。10分)、『ストーストレーム橋』(1950。7分)。
『あるじ』BFI盤レヴュー
filmjourney/
dvdbeaver
『怒りの日』のクライテリオン盤とBFI盤の
比較レヴュー
『奇跡』のクライテリオン盤とBFI盤の
比較レヴュー
『ゲアトルーズ』のクライテリオン盤とBFI盤の
比較レヴュー
BFIフィルム・クラシックスからは昨年、脚本家デイヴィッド・ラドキンによる研究書『吸血鬼』も出たので『吸血鬼』DVD発売も望まれる。
ちなみに紀伊國屋書店のクリティカル・エディション・シリーズ第4弾は、ベンヤミン・クリステンセン(1879−1959)監督の『魔女』(未。1919−21)である。このセミ・ドキュメンタリー・タッチの異色作は『裁かるるジャンヌ』にも影響を与えている。クライテリオン盤『魔女』にはカスパー・ティベアの音声解説付き。
『魔女』に関する英語記事
クリステンセンはオペラ歌手から舞台俳優に転向、監督デビュー作『密書』(1913)から監督第4作『魔女』まで脚本・主演も兼ねている。その後、2本のドイツ映画を作った後、ハリウッドに招かれ、『悪魔の曲馬団』(1926)、『妖怪屋敷』(1928)で知られる。クリステンセン監督・主演の『密書』(85分)と『復讐の夜』(特殊上映題。1916。100分)はデンマーク映画協会(DFI)でDVD化されている。英語字幕付き。ニール・ブランドの伴奏音楽付き。後者の撮影は『魔女』のヨハン・アンカーステュアネ。
デンマーク映画協会のオンライン・ショップ(一時的に閉鎖中)
DFIは70本の初期デンマーク映画を含む創設60周年記念(2003年)の『最初のフィルム・アーカイヴ』(225分)以来、貴重なDVDを出し続けている。
DFIのDVDでは『アルフレズ・リン集』も興味深い。リン(1879−1959)が撮影・監督を兼ねた『空魔団』(1912。46分)とその続編『熊使い』(未。1912。40分)を収録。英語字幕付き。ニール・ブランドのピアノによる伴奏音楽付き。
ニール・ブランド公式HP
特典の『映画の命知らず』(未。1923)はエミーリエ・サンノムの決死のスタント場面(8分)。1886年生まれの女優エミーリエはデンマークのパール・ホワイトの異名をとった女優で危険なスタントをたびたび行ない、日本でも人気があった。その後、落下傘降下の曲芸師となったが、1931年の夏、落下傘が開かず、約1万人の人々の見守る中、600メートル上空から地上に転落し死亡した。
スカンディナヴィスク=ルシスケ・ハネルスフス(スカンディナヴィア=ロシア商会)社は1911年から13年にかけ25本の映画を製作したが、DVD収録の2作のみが不完全ながら現存を確認されている。
アルフレズ・リンは1908年にノーディスク・フィルム社のニュース映画キャメラマンとなり、翌年、伝説的大女優アスタ・ニールスンの映画デビュー作『深淵』(特殊上映題。1910)などの劇映画の撮影を手がけ、さらにロバート・ディネスンと共同でヘアマン・バングの同名小説の最初の映画化である『四人の悪魔』(1911)を共同監督した。その後、ドイツ映画、イタリア映画も撮っている。
『アスタ・ニールスン集』DFI盤DVD。収録作『深淵』(35分。16fps)+『バレエの踊り子』(1911。45分。16fps)+『黒い夢』(1911。56分。16fps)+『光に向かって』(1919。55分。20fps)。
『アスタ・ニールスン集』DFI盤レヴュー(英語)
最後の監督作『王立サーカスの悲劇』(未。1928)は、『パンドラの箱』(1929)や『M』(1931)で知られるシーモア・ネーベンツァールのネロ・フィルム製作で、ネーベンツァールの甥にあたるローベルト・シオドマクが助監督についている。
『魔女』はドライヤー監督の『牧師の未亡人』(1920)同様、スウェーデン映画である。『牧師の未亡人』は米イメージ・エンターテインメントでDVD化されている。同時収録は『彼らはフェリーに間に合った』(12分)と『トーヴァルセン』(11分)。
『牧師の未亡人』米盤DVDレヴュー
ドライヤー監督のドイツ映画『ミカエル』は、クリステンセン主演作である。DVDは英ユリイカから80周年記念特別盤(2枚組)が出ている。本編は90分。中間字幕は英語、ドイツ語の2種類。それそれ別ディスク。ドイツ語版には英語の追加字幕が入る。同作は米キノでもDVD化されている。本編は86分。中間字幕は英語。
『ミカエル』英ユリイカ盤DVD
『ミカエル』米キノ盤DVD
『ミカエル』英ユリイカ盤DVD
レヴュー
このほかイタリア、サン・パオロからは『ミカエル』(90分)+『サタンの書の数頁』(139分)+『あるじ』(107分)の3作を収めたDVD『カール・テオドア・ドライヤー・コレクション』が発売されている。
『カール・テオドア・ドライヤー・コレクション』サン・パオロ盤DVD
ちなみに『サタンの書の数頁』は米イメージ・エンターテインメントでもDVDが出ているが画質があまりよくない上、収録時間は121分。中間字幕は英語。ちなみに「聖なる映画作家、カール・ドライヤー」映画祭カタログ(エース・ジャパン)によると、同作は18fpsで148分とある。
『サタンの書の数頁』米イメージ盤DVD
レヴュー
『あるじ』はスペイン、フィルマクスからもDVDが出ている。これも107分。
『あるじ』スペイン盤DVD
レヴュー(スペイン語)
ドライヤーの監督デビュー作『裁判長』(1919)はデンマーク映画協会(DFI)からDVDが出ている。17fpsで89分。デンマーク語中間字幕に加え英語字幕も付く。特典としてドライヤー脚本の失われた映画『金(カネ)』(未。1916。監督・主演カール・マンツィウス、原作エミール・ゾラ)の55秒の断片付き。
また『むかしむかし』(1922)もDFIでDVD化されている。失われた場面をスチル写真と中間字幕で補った版で75分。
最後に、ご存知ない方が多いと思われるので付記しておくが、紀伊國屋書店のクリティカル・エディション・シリーズの『裁かるるジャンヌ』DVDは適正なコマ回転数(20fps)を選択して調整しているため、本編が96分。また現存する唯一のプリントから直接デジタル化したデンマーク語中間字幕版である。柳下美恵のピアノ伴奏付き。柳下は紀伊國屋書店版『魔女』DVDの伴奏も手がける予定。
これに対し、米クライテリオン盤は82分。イタリアのサン・パオロ盤は77分。共に中間字幕はシネマテーク・フランセーズが作り直したフランス語版。また韓国ではクライテリオン盤原版使用の海賊版が出回っているようだ。今年の2月に出たスペインのシャーロック・フィルムズ盤は98分。デンマークの作曲家・指揮者オーレ・シュミットの曲のピアノ伴奏(1982年)付き。
『裁かるるジャンヌ』スペイン、シャーロック・フィルムズ盤DVD/
レヴュー
オーレ・シュミット作曲、オルボー交響楽団演奏の
『裁かるるジャンヌ』CD