フランスのワーナー・ホーム・ヴィデオから4月12日、『陽動作戦』のDVDが発売された。 『陽動作戦』はワーナー社の製作者ミルトン・スパーリングの企画した映画である。もともとゲイリー・クーパー主演で企画されていたが、準備段階でクーパーが病に倒れ、メリル准将役は第二次大戦に従軍したジェフ・チャンドラーが演じた。クーパーは1961年5月13日死去。チャンドラーも映画の完成を待たず1961年6月17日に亡くなった。
1944年のビルマ戦線の物語だが撮影はフィリピンで行われた。サミュエル・フラーは第二次大戦に関する映画としては、自分の実体験に基づくライフワーク『最前線物語』(1980)以外監督する気はなかったが、結局引き受けた。
メリルズ・マローダーズのHP(英語)
レンジャー部隊について
1942年のビルマ方面作戦を扱ったハリウッド映画に、ラウル・ウォルシュ監督、エロール・フリン主演の『目標ビルマ』(未。1945)がある。こちらは日本軍陣地に降下する米空挺部隊の物語。実際のビルマ方面作戦は英国とオーストラリア軍が主導したが、映画は米軍が独力で勝利したかのような印象を与えるため、英国の退役軍人の抗議により英国では公開禁止処分になった。かくも愛国的な脚本を書いた一人レスター・コールと原作者のアルヴァ・ベッシーが、数年後に、「ハリウッド・テン」の一人として赤狩りの標的となるのはまさに皮肉である。撮影は中国系の名匠ジェイムズ・ウォン・ハウ。彼はフラーの監督第二作『アリゾナの男爵』(未。1950)の撮影監督でもある。 『目標ピルマ』は米ワーナー・ホーム・ヴィデオでDVD化されている。
『目標ビルマ』米盤DVD
仏カルロッタからは4月19日に、『サミュエル・フラーDVD−BOX』が発売された。収録作は『東京暗黒街・竹の家』(1955)、『折れた銃剣』(放映題。1951)、『地獄と高潮』(1954)。
『東京暗黒街・竹の家』は昨年、米国のフォックスでDVD化されたが、後二者は世界初DVD化。『折れた銃剣』は21歳のジェイムズ・ディーンが埋設地雷を探す兵士のチョイ役で出演。これが映画初出演作だがよほど注意して見ないと気づかない。潜水艦映画『地獄と高潮』はそれまで低予算のモノクロ・スタンダード映画しか撮っていなかったフラーが初めて手がけたテクニカラー・シネマスコープ作品。撮影は『ビガー・ザン・ライフ』(1956)のジョー・マクドナルド。続けてフラーが監督したフィルム・ノワール『東京暗黒街・竹の家』もテクニカラー、シネマスコープ作品。日本ロケが行われ、シャーリー山口こと山口淑子主演。フラー、山口淑子、ロバート・スタックは1955年1月26日来日。この日はジェイムズ・スチュワートも『裏窓』(1954)の舞台挨拶を兼ねた休暇のため夫人同伴で来日した。
フラーのDVDで変わったところといえば、
ブラジルのアウロラから昨年、監督デビュー作『地獄への挑戦』(1949)が出た。
ポルトガル語のレヴュー
『地獄への挑戦』はロバート・L・リッパート製作のB級映画。原題は『私はジェシー・ジェイムズを撃った』。リパブリック社撮影所を借り、10日で撮影されたという。ドライブイン・シアターのパイオニアでもあったリッパートが、娯楽小説家だったフラーに映画を撮らせようとしたところ、まずフラーが提案したのは「暗殺者」の物語だった。カエサル暗殺の黒幕だったカッシウスの話を提案し、退けられたフラーが次に提案したのがジェシー・ジェイムズを暗殺したロバート・フォードの物語だった。
ジェイムズ兄弟といえば、ブラッド・ピットがジェシーを、サム・シェパードがフランクを、ジェシーを背後から撃つロバート・フォードをケイシー・アフレックが演じたアンドリュー・ドミニクの『臆病者ロバート・フォードによるジェシー・ジェイムズ暗殺』(仮題。2006)がカナダでの撮影を終え、公開待機中だ。日本では秋に全国ロードショーの予定。製作はリドリー&トニー・スコット兄弟のスコット・フリー・プロとブラピのプランB。 近年では、コリン・ファレルがジェシーを演じたレス・メイフィールドの『アメリカン・アウトロー』(2001)も記憶に新しい。同作DVDはポニーキャニオンから発売中。
ポニーキャニオンのHP
蓮實重彦による『アメリカン・アウトロー』評
ジェシー・ジェイムズものではヘンリー・キングの『地獄への道』(原題『ジェシー・ジェイムズ』。1939)とフリッツ・ラングによる続編『地獄への逆襲』(1940)が名高いが、戦後だと、たとえば、ニコラス・レイの『無法の王者ジェシイ・ジェイムス』(原題『ジェシー・ジェイムズの真の物語』。1957)がある。その他、ロバート・デュヴァルがジェシーに扮した『ミネソタ大強盗団』(1972)、デイヴィッド&キース・キャラディン兄弟がヤンガー兄弟に、ジェイムズ&ステイシー・キーチ兄弟がジェイムズ兄弟に扮した『ロング・ライダーズ』(1980)などが有名。
ジェームズ・ギャングについての日本語記事
ジェシー・ジェイムズに関しては岡田泰男『アメリカの夢アウトローの荒野−ジェシー・ジェイムズの西部』(平凡社)が参考になる。亀井俊介『アメリカン・ヒーローの系譜』(研究社出版)、南塚信吾『アウトローの世界史』(NHK出版)なども参照。
『地獄への挑戦』のロバート・フォード役はジョン・アイアランド。フラーは『赤い河』(1948)の演技を買って、アイアランドをフォード役に起用した。リッパートがネーム・ヴァリューのある俳優の起用を望んだので、郡保安官ジョン・ケリー役にプレストン・フォスターが選ばれた。フォスターはフラーのお気に入りの1本『男の敵』(1935)にIRA(アイルランド共和国軍)のリーダー役で出演していた。『男の敵』(1935)は、米ワーナー・ホーム・ヴィデオから6月6日発売の『ジョン・フォード・フィルム・コレクション』DVD−BOXに収録。他の収録作は、『肉弾鬼中隊』(1934)、『メアリ・オブ・スコットランド』(ビデオ題。1936)、『バファロー大隊』(1960)、『シャイアン』(1964)。すべてニュー・デジタル・トランスファー。
『ジョン・フォード・フィルム・コレクション』DVD−BOX
フラーは『地獄への挑戦』の後、リッパートで、ヴィンセント・プライス主演の『アリゾナの男爵』、朝鮮戦争ものの秀作『鬼軍曹ザック』(1950)の2作を撮っているが、これらのDVD化も待望される。
フラーの自伝(序文:マーティン・スコセッシ)『第三の顔』(2002)。を参照