今回は、『ビガー・ザン・ライフ』(1956)日本盤発売の紹介も兼ねて、ニコラス・レイのDVDを紹介する。今年公開50周年にあたる『ビガー・ザン・ライフ』は、『黒の報酬』という題名で放映されたことはあるものの、日本ではほとんど観られていないといっていいだろう。
50年代のカイエ・デュ・シネマ誌による高い評価以来、フランスを中心にシネフィル的なカルト映画となっているものの、米国でもほとんど観られていないようだ。それもあって、昨年末の『ビガー・ザン・ライフ』仏カルロッタ盤発売は英語圏でも話題になっている。3月に紀伊國屋書店から発売されるのも基本的に同じ版である。鮮明な本編にたいし、完全に褐色しているものの、製作者兼主演のジェイムズ・メイソン自らが宣伝の口上を述べる貴重なオリジナル予告編付き。
では、他のレイ監督作のDVD化状況はどうだろうか。レイはハリウッドの異端児だけあって、名作として公認された『理由なき反抗』など、普通に出回っているタイトルはごく僅かである。
ちなみに紀伊國屋書店からDVDの出ている『ジェームズ・ディーンのすべて/青春よ永遠に』には、バイセクシャルについて聞かれ、はぐらかすレイの映像が一瞬登場する。
3月4日に仏ワーナーから
『暗黒街の女』(1958)のDVDが発売。/
レビュー
昨年はディーン没後50年と同時に『理由なき反抗』(1955)公開50年でもあったが、昨年刊行された同作の関連書籍を紹介しておく。一冊はLawrence FrascellaとAl Weiselの共著『Live Fast, Die Young』(Touchstone)。『理由なき反抗』の製作経緯やレイのキャリアについてよくまとまった本。レイの同性愛については、いくつかの証言を踏まえ、断定を避けている。もう一冊は『理由なき反抗』をめぐる文化研究的論文集『Rebel Without a Cause』(State University of New York)。編者はJ. David Slocum。
レイの処女作『夜の人々』(1947ー49)は、日本ではビデオが出ていたが、今やレンタル店でもまず見つからない。海外では、『夜の人々』は、RKOの低予算作品が比較的多く発売されているスペインのマンガ・フィルムス盤、伊モンド盤のほか、仏エディシオン・モンパルナスから一昨年、レイを収めた記録映画『I’m A Stranger Here Myself』(1974)などのボーナス盤付きの2枚組みの特別盤が出た。
『夜の人々』仏盤DVDレヴュー(英語)
日本未公開の『ある女の秘密』(1948)、ジョン・クロムウェル名義の『脅迫者』(ビデオ題。1951)は西マンガ・フィルムス盤が出ている(前者は仏エディシィオン・モンパルナス盤もある)し、スタンバーグ監督名義の『マカオ』(1952)、日本ソフト未発売『危険な場所で』(1952)は、仏エディシオン・モンパルナス盤、スペイン・マンガ・フィルムス盤、伊モンド盤が出ている。ハンフリー・ボガートのサンタナ・プロが製作した『暗黒への転落』(1949)は日本盤のみ。単体売りはなく、期間限定生産BOX『COLUMBIA TRISTAR フィルム・ノワール・コレクション Vol.1』に『孤独な場所で』(1950)などと共に収録されているが、レンタルがある。
待望されるのは、ロバート・ミッチャム主演の『死のロデオ』(放映題。1952)のDVD化である。『大砂塵』(1954)は仏、独、英盤がある。『にがい勝利』(1957)の米Sony Pictures盤はランニングタイムが102分の全長版(日本公開版も)で米公開版より20分長い。
レイがハリウッドを追われた時期の『バレン』(1960)はスペイン・スエビア・フィルムス、伊メドゥーサ・ヴィデオから出ていたが、今年の2月に英国Eurekaの
「マスターズ・オヴ・シネマ」シリーズから発売された。
『バレン』英盤DVDレヴュー
イヌイットの生活を扱った異色作『バレン』(ちなみに原題は『野蛮で無邪気な人々な』。邦題の「バレン」とは「バレン・ランド」すなわち「不毛の地」の意味。「バレン・ランド」とはカナダ東部ツンドラ地帯の異名。この映画のことは、ボブ・ディランの歌にも取り上げられている。『バレン』の撮影監督はヴィスコンティの『郵便配達は二度ベルを鳴らす』(1943)、ロッセリーニの『ヨーロッパ51年』(1952)、フェリーニの『カビリアの夜』(1957)などのアルド・トンティ。
『バレン』のスチル写真
レイの映画に出た日本人としては、『北京の55日』(1963)の伊丹一三(伊丹十三)が有名だが、『バレン』では谷洋子がアンソニー・クイン、ピーター・オトゥールと共演している。谷洋子(本名・猪谷洋子)は1928年パリに生まれ、1930年に両親と共に帰国。1950年に渡仏しパリ大学入学。その後、フランス映画への端役出演を経て、英国映画『風は知らない』(1958)でダーク・ボガードと共演。シャーリー・マクレイン主演の『青い目の蝶々さん』(1962)にも出ているほか、世界各国のB級映画に出演、特に60年代スパイ映画が多いが大半は日本未公開。1999年4月19日、パリで亡くなった。ここで、谷洋子の他の出演作のDVDを見てみよう。
スタニスワフ・レム原作(邦訳『金星応答なし』)の東独=ポーランド合作SF映画『金星ロケット発進す』(1960)は、さまざまなパブリック・ドメイン・メーカーから米国公開版の短縮版のDVDが出ている。日本では日立インターメディックスから短縮版のDVDが出ていたが、廃盤のようだ。昨年、米ファースト・ラン・フィーチャーズから修復された完全版(英語題『Silent Star』)のDVDが出た。
米First Run Features盤DVD(DEFA・サイファイ・コレクションの1枚。95分の完全版)/
レビュー
リッカルド・フレーダの『フビライ・カン宮廷のマチステ』(未。1961。英語題『サムソンと世界の七つの奇跡』)は米アルファ・ヴィデオからDVDが出ている。
『サムソンと世界の七つの奇跡』米Alpha Video盤DVD